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仰々しく季節の移りかわりを告げる春雷の音に触発され、 長く手元に借りていた本を読む。 「タイムスリップ・ロマンス」(TSR)という、 シィアルの専門分野に広い意味で重なる本書は、 確かに、広い意味でのTSRだった。 クーンツの作品はハッピーエンディングを予想して 読むのだが、当然といえば当然ながら、 クーンツは、いわゆるロマンス小説作家ではない。
多分、私が勝手に、ヒロインのローラ・シェーンが巻き込まれる アクシデントのハードさ、「守護の使い」こと、 タイムトラベラー、シュテファン・クリーゲルの 強いイメージから、ついついリンダ・ハワード的な展開を 期待してしまうのがいけないのだろう。 だから、クーンツ作品をたくさん読んでいる方にとっては、 『ライトニング』は、かなりロマンス度が高いとも言えると思う。
ちなみにこの時点で私の読んでいるクーンツ作品は、 『ウォッチャーズ』と『ぬいぐるみ団オドキンズ』だけ。 『オドキンズ』は、けっこうなクーンツファンでも未読の方が 多かろうとは思うが、そんなわけなので、何分多くは語れない。
『ライトニング』は「ジャンルを超えた作品」と評価されている。 クーンツは、タイムトラベルやハードアクション、ロマンス、女の友情、 男の嫉妬、戦史、異常犯罪、哲学、ユーモアを大鍋に入れ、 そこに「閃光(ライトニング)スパイス」を投じて、 いわくいいがたい香気を放つ作品を創りあげている。
主人公のローラは、生まれる瞬間から、長身で金髪碧眼、絵に描いたような 「守護の使い」シュテファンに守られていた。 その後も、何年かに一度の割合で、彼女の運命が「執拗に構想の復元をくわだてる」 たびに、シュテファンの姿があらわれる。雨を伴わぬ閃光とともに。 なぜ、守護の使いはあらわれるのか。 ローラと彼の間、そして、シュテファンが本来属している「ナチの世界」と 現在の間には、どんなつながりがあるというのか。 シュテファンがヒトラーのSS隊員であることは前半で判明するが、 なぜ彼がローラを助けるのかは、後半、二人が会話するまで 明らかにされない。
後半、シュテファンの追っ手から息子クリスを守ろうとするローラの姿は、 映画『ターミネーター2』を思わせるほどハードである。
実際、ローラは成長する。 子どものころの受け身で弱いイメージをくつがえし、 自分をペンで表現し、愛する者を守ろうと戦い、 「一度見たら忘れられない顔」を私たちに想像させる。
そして、双子のアッカーソン姉妹! 孤児となったローラが施設で出会った彼女たちは、 忘れがたい存在である。 彼女たちなくしては、この物語は羽をなくしたも同然。 空想のカエル、トーマス卿もまたしかり。
そういう意味では、シュテファンがあえて天使っぽく、というか、 人間味を少なく造形されている(ロボットのターミネーターほどではないが) ことにも、意図があるのだと思う。 彼の抱える苦悩、まなざしにあふれる地獄からの叫び声を、 私たちにはっきりと知らせる代わりに、 彼は黙々と行動し、殺し、生かす。
もう一段階話を複雑にするならば、シュテファンが実は 本当に天使だった、というのはどうかと思うほどに。 (マーズ)
『ライトニング』著者:ディーン・R・クーンツ / 訳:野村芳夫 / 出版社:文春文庫1989
2004年04月06日(火) 『英国セント・キルダ島の何も持たない生き方』
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管理者:お天気猫や
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