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1900年生れのE・グージ。
イギリスで最初に出版されたのは1946年。 グージの作品は初めて手にする。 J・K・ローリングが、ハリーの原点といえるほど 愛読した作品だというのも、後から知った。
イギリスの児童書らしい几帳面さと、 少女の一途でリリックな感性、母への思慕、歴史ある一族への想い。 孤児となって、英国の「ウエスト・カントリー」と呼ばれる ロンドン東南部シルバリーデュー村の、 メリウェザー一族の城へ引き取られた少女マリアの身に つぎつぎと起こるファンタジイの洗礼と、 奇妙にゆがんだ登場人物たちの洗礼。 このゆがみに、今はない芳香が漂っている。
パラダイスの丘、 ムーンエーカー館、 料理番のマーマデューク、 コーンウォールの誇り、ピンクのゼラニウム。 海からやってくる白馬たち。
そんなあれこれが、なぜこうも なつかしく思えるのだろう。 イギリス人でもないというのに! お話を読んで育った者のなかに、 少しずつ溜められていった毒が効いてきたのだろうか。
ところで、マリアが暗い松林に足を踏み入れる描写は、 一瞬、私を、時間も場所も越えて、京の都を舞台にした 『えんの松原』(伊藤大八著)の世界に飛ばしてしまった。 ローリングの感じたようなシンパシィが 両者にあるのかどうか、全く定かではないが。
他にも、宝石にまつわるエピソードで、これはグージのほうが、 L・M・モンゴメリの『エミリー・シリーズ』を愛読していたのでは、 と思わせられる場面もあったりした。 牧師とのやり取りや、孤児であること、一族のなかでの立場や 他の誰にもできなかった問題の解決など、 エミリーとマリアの共通点は多いように思う。
この福武文庫版は、1964年にあかね書房から、 国際児童文学賞全集の一冊として出版されたものの復刊。 石井桃子の解説に書かれているが、原書のなかで、 デボン州の風俗や細々とした部分を省略したという。 この後で出た岩波版(同じ訳者)では、全部かどうかは わからないが、略した部分も復元されているようだ。
アリソン・アトリーの『時の旅人』がそうであるように、 特別な場所があり、その土地に根付いた一族がおり、 時代時代に、自分の分身や、身内の分身のような人物がいる。 「家族」という壊れがちな単位を越えて、時を旅する「同族」という 「流れ」への信頼感と安心感。 その感覚はこれらに共通しているように思える。 『時の旅人』では実際に過去へ旅をするが、 『まぼろしの白馬』では、過去が現在と混在している という違いはあるけれど。 (マーズ)
『まぼろしの白馬』 著者:エリザベス・グージ / 絵:ウォルター・ホッジス / 訳:石井桃子 / 出版社:福武文庫1990
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管理者:お天気猫や
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