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ミラノ・スカラ座を観にいきましょう。 「何を演るの?」 ベルディのマクベス。 「ま、マクベス?シェイクスピア四大悲劇の?オペラになってるの?」 ベルディはシェイクスピア好きなんですよ。 ほら、今回もう一つの方の公演は有名な『オテロ』でしょ。 「なるほど。『マクベス』ってどんな話だったっけ」 それはですね。
スコットランドの武将マクベスは、荒野で三人の魔女に出会う。 魔女の不思議な予言に心動かされたマクベスは王を暗殺し、 王位を手にする。 しかしその日からマクベスの心は恐ろしい不安に苛まれ、 とめどなく邪魔な者達を手にかけ始める。
「もう眠れないぞ!マクベスは眠りを殺した」
人間、睡眠は大事ですよね、眠らないと精神状態が不安定になって 亡霊が見えたり被害妄想に襲われたりする 「眠れなくなるの。良心のある殺人者だね」 「下克上は悪事ではない時代ですから、 マクベスは悪人ではないんですよ。 意識して悪を極めるリチャード三世とは違います。 マクベスの場合、奥方が無理やり唆したんです」 「ああ、マクベス夫人か」
心理学で必ず語られるマクベス夫人の強迫観念による「手洗い行動」。 昼間は強い意志で気丈に振る舞い夫を叱咤する夫人も、終幕、 夜ごと夢うつつに血塗られた手をいつまでもこすり続ける。
「まだ血の臭いが取れぬ、アラビア中の香水をみな振り掛けても この小さな手に芳しさは戻らない。ああ、ああ、ああ」
「‥‥怖いよ。その台詞、魚さばいた後よく言ってない?」 「愛唱句です」 「‥‥」
やがて自分も王位を奪われ殺されるのではないか、 という不安にいてもたってもいられなくなったマクベスは、 再び荒野の魔女のもとを訪れ、新たな予言を手に入れる。
「マクベスを倒せる者はおらぬ、女の産み落とした者のなかには」 「マクベスは滅びはせぬ、あのバーナムの森が ダンシネインの丘に攻め上ってくるまでは」
「それじゃ大丈夫じゃん」 「この予言がトリックになっているんですよ。この部分は面白いので その後あっちこっちでアレンジされて使われてますよね」 「例えば?」 「ロード・オブ・ザ・リング。 あの話は『マクベス』ネタがいっぱい入っているので、 来年公開の『王の帰還』を見てから教えてあげます」 ひとつだけ。『二つの塔』で字義通り「森が城を攻める」場面、 あったでしょ。
昔、TVで演っていた『マクベス』のクライマックスを見た弟が言った。 「あー、よかった、マクダフが『わはははは!俺は男から生まれたのだ』 とか言ったらシェイクスピア殴りにいってたところでした」 殴られずにすんで良かったですね文豪。 「英語の引っ掛けなので、日本語だとピンとこないんですけどね」 「それで、バーナムの森はお城を攻めるの?」 「たぶんその場面は御存知だと思います。 本を貸しますので読んで下さい。 シェイクスピアものの中では短くまとまっていて 緊迫感があるからすぐ読めますよ」 主人公が逡巡する故に悲劇が増幅される『ハムレット』に較べると、 『マクベス』は坂道を転がり落ちる様に一直線に破滅に向かって、 あっという間に幕切れを迎えます。 元スコットランド王に劇をお目にかけるためにシェイクスピアは 王室に不都合な部分を劇中からカットしたらしいと言われていて、 言葉の端々からいろいろ察せられるけれど語られないマクベス夫人や 刺客の背景を全部明らかにした完全版がどっかから発見されないかなあ、 などと思ってしまうくらいです。出て来たらすごいお宝ですが。
翌日。 「う〜〜むう〜〜む」 「読みました?」 「あとちょっと。人間って‥‥こういうものかあ‥‥ こういうものだよね‥‥う〜〜む」 だから四百年経っても一字一句そのままに演じられているんですよね。 (ナルシア)
『マクベス』 著者:ウィリアム・シェイクスピア / 訳:福田 恒存 / 出版社:新潮文庫
『マクベス』 著者:ウィリアム・シェイクスピア / 訳:木下順二 / 出版社:岩波文庫
『マクベス─シェイクスピア全集3』 著者:ウィリアム・シェイクスピア / 訳:松岡和子 / 出版社:ちくま文庫
『マクベス─シェイクスピアコレクション』 著者:ウィリアム・シェイクスピア / 訳:三神勲 / 出版社:角川文庫クラッシクス
*文中の台詞はどの翻訳というものではなく、私の記憶の中の台詞です。
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管理者:お天気猫や
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