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ナルニア国物語の最終巻。 偉大なライオンのアスランによって創造された国ナルニアの、 さいごの様子、さいごの悪との戦いが、あまさずに描かれる。
最初に読んだのはもう15年くらい前のことだ。 改めて読み直すと、以前ほどキリスト教的なイメージでは なく、むしろ21世紀に通じる精神世界神話に感じられた。 この15年の間に、現実世界で出会えた人々を思い、 見えない世界の計らいに感謝しながら、アスランの導きを再読した。
発端となる事件をひきおこす、サルのヨコシマと、 ロバのトマドイ。その名の通りの性格の二人組は、 アスランの名をかたって、ナルニアを滅びの方向に引きずり始める。 こんなことがきっかけになるのだろうか、と思うほど 簡単に、世界はほころび、やがて収拾がつかなくなる。 その成り行きは、政治や国のあり方についての示唆とも 受け取れて、居心地が悪い。 それだけのことで滅びてしまうということは、 ひとつの世界としての生命力が、それほどに衰えてしまった ということなのだから。
時代はチリアン王のすえ。 異世界である人間世界から訪れる子どもは、 ジルとユースチス。 ナルニアを支配下におこうとする戦好きのカロールメン人(びと)、 彼らの信奉するタシの神、 誰も信じなくなった偏狭な小人たち、 そのなかでアスランを信じる小人ポギンは チリアンたちと行動をともにし、裏方で旅をささえる。
このポギンは確かに、ナルニアの物語に影響を与えたといわれる 『指輪物語』や『ホビットの冒険』の小人族、ホビットを 連想させるキャラクターである。 旅の途中、料理をして一行をもてなす様子など、 とりわけ似ていて、トールキンの世界との意識的な交歓だろうかと (無意識的にルイスがそれをしたとは思えないので)想像した。
この物語でもっとも論議がわかれるのは、 人間世界の英国、つまり今までにナルニアを訪れたあの 子どもたち(老いた者も含めて)が、列車事故にあって、 その世界では死んでしまったが、こちらの世界では永遠の生命を 得ているという設定だろう。 ナルニアと強く深く結びついている子どもたちが ナルニアの死と同時に現実の世界で死んでしまうというのは、 物語の性質上、避けられないことかもしれない。 しかし、まだそのあとがあるのだ。 そこを力強く描いているからこそ、 本書はカーネギー賞を受賞したのでは ないだろうか。
シリーズを通して、発表年は異なるが、ナルニアの国が生れた瞬間から 終わりを迎え、その後の世界が始まるまでが描かれる。 アスランは言う。 私達はみな、本当の世界の写し絵、鏡に映った影のような 現実世界に生きている。 しかし、やがて旅立つときがやってくる。 真実、そう願う者はすべて、「さらに高く、さらに奥へ」 進んでゆくのだ。 あるいは、還ってゆくのだ。 「影の国」をあとにして。 (マーズ)
『さいごの戦い』 著者:C・S・ルイス / 絵:ポーリン・ベインズ / 訳:瀬田貞二 / 出版社:岩波少年文庫1986
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管理者:お天気猫や
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