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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2003年06月16日(月) --

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「世界の果ての庭」

世界の果ての、といえば。
モリスの「世界のかなたの森」(萩原規子もタイトルに使っている)
ではないけれど、
なにかこう、ぱーっとイマジネーションがひろがりそうな
予感がして、図書館にて探し出してきた。
著者はヴァージニア・ウルフやマンスフィールド、
チェスタトンなどの翻訳家として多くの仕事をしている。

「世界の果ての庭」は、30代後半の作家、リコを表の主人公に、
短編の連鎖として多層的に描かれたフィクション。
リコとアメリカ人学者スマイスとの理想的な恋愛、
スマイスが研究している江戸の学者のこと、
若くなる病気にかかったリコの母をめぐる苦悩、
リコの作品世界、
リコが惹かれる英国庭園を通じて語られる「庭」への洞察、
リコの祖父が体験する別世界。

なかでも、太平洋戦争末期にビルマで行方不明となった
祖父の、迷い込んだ別世界での描写は、
幽界譚めいて、先へ先へと拾い読みしたくなる。
縦横に階層をめぐらした「駅」のある果てしない世界。
その駅に、乗ることのできない列車が停まっては去ってゆく。

リコは「庭」というものの意味を、移動を内包した
中間的な場、家でも外でもない存在であり、
庭を通過するとき、人間は『通行者』(パッセンジャー)になるのだ
という。

現世から浄土への道をめざすべき死者が、
通過する世界が、この幽界めいた「駅のある世界」なのだとしたら、
リコの庭への洞察と、顔も知らない祖父のさまよいこんだ世界の
シンクロが、通行者というキーワードで結ばれるという
とらえ方もできるのだろう。

そして祖父がさまよったこの世界、
J・G・バラードのSF短編「大建設」(創元推理文庫「時間都市」に収録、現在絶版)
と比較すれば、さらに奥行きが深まりそうだ。

「大建設」では誰でも列車に乗れるが、
こちらでは乗れないという違いも興味深い。
こちらで想えば、その世界をさまよう魂は救われるだろうか。
果てのない、外のない世界、不可解な法則にもとづいて
確かに存在しているはずの世界を。
(マーズ)


「世界の果ての庭」 著者:西崎憲 / 出版社:新潮社

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