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1988年から順次、 「ワンス・アポンナ・タイム・シリーズ」という 古典童話の絵本集が西村書店より発刊された。
そのラインナップは、
『リング王子−アイスランドのむかしばなし』
『スノー・クイーン』
『女王バチ』
『ガチョウ番のお姫さま』
『木のはえた花嫁−ノルウェーのむかしばなし』
『白雪と紅ばら』
『ラプンツェル』
『3まいの羽』
『ブタ王子−ル−マニアのむかしばなし』
『漁師とそのおかみさん』
『フィッチャーさんちの鳥』
『3つのことば』
『すずの兵隊』
『赤ずきん』
『眠り姫』
『シンデレラ』
『モミの木』
『美女と野獣』
『ジャックと豆の木−イギリスのむかしばなし』
『ヘンゼルとグレーテル』
の、20冊である。
中には、品切れの物もあるようだが、
大部分の本は今でも手に入る。
絵本というよりはアート。 それは画集であったり写真集であったりと、 非常に大胆で、また贅沢な大人のための絵本シリーズだ。
年は取りたくないものだが、それでも年を重ねることで、 やっと分かってくることもある。 今さらながらに、やっと、物の価値、値打ちに気づくのだ。 「ワンス・アポンナ・タイム・シリーズ」の発刊は、 画期的で、出版界のニュースであったことは知っている。 知っていたが、そんなにすごい事・すごい物だとは 思っていなかった。
何しろ、小さくて薄い絵本で、1冊が1000円前後。 1000円出せば、大判の美しい絵本はいくらでもあったのだ。 だから、私は、中でももっとも大胆かつ少々実験的ともいえる、 イラストではなく、モノクロームの写真で構成された 『赤ずきん』と『もみの木』だけしか持っていない。
『赤ずきん』は、確かに『赤ずきんちゃん』の物語である。 ファッション・フォトグラファーのサラ・ムーンの 写真で構築された物語は、とても淫靡である。 現代に置き換えられた物語の舞台は、暗い影の伸びる路地裏。 狼ではなく、少女につきまとうのは一台の車。 登場人物は少女だけだが、 『赤ずきん』(ペロー版)という物語の危険な匂いが あますことなく表現されている。
マルセル・イムサンドの写真による 『もみの木』もまた、ユニークだ。 なんと、「もみの木」が幼い男の子として 表現されているのだ。だからよけいに切なくて、 ぎゅっと胸をしめつけられる物語になっている。
何度となく読んだことのある物語でも、 アーティストの表現によって、 こんなにも受ける印象が違う。 それが、「ワンス・アポンナ・タイム・シリーズ」の魅力であり、 このシリーズのコンセプトだったのだろう。 美しく、斬新であること。 古典的な物語を、テキストはそのままで、 言葉以外の表現者の手で、 クラシックを、もっともモダンなものに reborn−再生させること。 当時はそんなことを考えもしなかったから、 ただ毛色の変わった絵本シリーズにしか見えなかったのだろう。 「高邁な野心」 そんな言葉がふっと、心をよぎった。
これからも年を重ねることで、 時には、こんな風に、若い頃に見落とした 大切なことに気づくのだろうか。 それなら、まあ、 年を取るだけのことは、あるのかもしれない。(シィアル)
「ワンス・アポンナ・タイム・シリーズ」 / 出版社:西村書店
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管理者:お天気猫や
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