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スカーレットは、三人の男性と結婚し、それぞれの 結婚で、一人ずつ子どもを産む。 初めての出産は十代。当時としては普通のことだった。
最初の夫二人は死んでしまうので、連れ子の面倒は 三番目の夫が引き受けることになるのだが、 この三番目の夫だけは、出産に対するもってまわった 言い回しを使わず、穢れ扱いをしなかった。 「身体の不調」などと言わず、「妊娠」という言葉を堂々と口にした。 子育てにも積極的だった。 強気なスカーレットですら常識の影に隠したがったことを思うと、 彼はきわめて現代的なモラルを持った人物といえる。
だが、世間はそうではなかった。 スカーレットが旧い時代のアトランタの夫人連に距離を置かれたのは、 もちろんそのためだけではないが、 妊娠後の彼女の行動が、アトランタの女性たちの眉をひそめさせた のは、枠からはみ出る同属への嫌悪と嫉妬からだった。 普通なら人目をはばかり、ひっそりと家に篭るはずの 妊婦となったスカーレットが、一時は供も連れずに馬車を乗り回し、 しかも女だてらに戦争成金となって製材所を経営しているというのは、 まったくもって、現代の女性社長顔負けである。
ミッチェルは身内に郷土史の熱心な研究家がいたこと、 自身がアトランタ育ちであったこともあり、 史実にもとづいたリアルな歴史描写を書き込んでいる。 と同時に、南北戦争当時の上流女性たちの、 いわゆる淑女と呼ばれる人々の間で用いられた 儀礼や常識・非常識といったことがらを、 まるでその社会に生き、その社会にとらわれた女性が 描いたかのように活写しているのだ。
ある立場の人がかくなる行動を取った場合、 それは暗に、特別な意味をともなって地域社会に受け取られるとか、 レディというカテゴリーに入るのは厳密にどのような 女性であるのかとか、他家を訪問する際のマナー、 家と家の格式の差、求婚や葬儀のしきたりとか。
これらは、歴史の綿密な描写とともに、彼女の取材力の賜物であり、 決して彼女がその当時の社会に生きていたから、という 単純な理由ではないことを、今にして知った。 彼女が生まれた当時、戦争を体験した人々は、 すでに祖父母の世代となっていたのだ。 もっとも、祖父母の世代だからこそ、孫娘に昔語りを 繰り返すことを誇りにしたのかもしれないが。
何にでも関連を探してしまうのは私の癖である。 たとえば、 『風と共に去りぬ』のアメリカ、ウーマンリブのアメリカ。 対照的でありながら、旧い一面があったから、もう一面が生まれる。 旧南部の生み出した最後の女性の象徴として描かれるレディ・メラニーと、 奔放で身勝手に見えながら、現実を見すえ、 何者にも屈しない新しい女性として描かれる スカーレット・オハラのように。 (マーズ)
『風と共に去りぬ』(1-5) 著者:マーガレット・ミッチェル / 訳:大久保康雄・竹内道之助 / 出版社:新潮文庫
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管理者:お天気猫や
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