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ライラ・シリーズ以外のフィリップ・プルマンをニ冊読んだ。 これは世にも奇妙なお話、 チクタク進む時計の音と死のイメージを組み合わせた 短くも不思議な一夜の物語。
グロッケンハイムの町には大きな時計塔がある。 時計職人の伝統の集大成、ゼンマイ仕掛けの『しかけ人形』が、 見習い職人の年期奉公明けに披露されるのだった。
しかし、今回の見習い工、カールは追い詰められていた。 人形は、つまり彼のデビュー仕事は、できあがっていなかったのだ。 よくあることだが、見苦しい事態である。
おひろめ前夜を迎えた寒い冬の夜、酒場ホワイト・ホース亭で 不思議なことが起こった。 作家のフリッツが客たちに物語る『時計はとまらない』の 登場人物、謎のカルメニウス博士その人が、現れたのだ。 ゼンマイじかけの王子さまを作り出したと言われる奇人が。 そして、物語は意外な方向へ舵を変える。 つけ入る者、陥れられる者、刃をかざす自動人形の足音。
一部始終を見ていたのは、心やさしい酒場の少女グレーテル。 彼女は『まっとうな』心の持ち主だった。 後半は彼女の冒険譚である。
かの森に置き去りにされ囚われたグレーテルが、魔女を倒し、 ヘンゼルとともに明るい世界へ帰ったように。
奇想天外なストーリーと同時に、人生や運命の不思議、 他者に操られることなく自分の人生を生きる知恵が示される。 私たち大人にとって、耳の痛い箴言や どこかに忘れていた薔薇色の思いを浮かびあがらせて。
その翌朝、時計塔のてっぺんで本当は何が起こったのか。 ハッピーエンドの裏で何があったのか。 それは私たちの想像に任されたのだろうか。 語り部は最後に言う。
「もちろん、なぞはとけなかった。」(本文より) と。
(マーズ)
『時計はとまらない』 著者:フィリップ・ブルマン / 絵:ピーター・ベイリー / 訳:西田紀子 / 出版社:偕成社
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管理者:お天気猫や
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