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メリングの本はこれで4冊目になる。 (『妖精王の月』『ドルイドの歌』『歌う石』) 現実のアイルランドと妖精の住まうアイルランドが 違和感なく、一続きの世界として、目の前に現れる。 本を読んでいる間中、私のそばで、 美しく、この上もなく残酷な妖精たちが ずっと、物語の成り行きをうかがっている。 そんな風な空想がいとも簡単にできてしまう。 −リアルな夢想。
ケルトの神話。妖精の物語。 それらが、今、この現実の世界に複雑に重なり合い、 さらに壮大で美しい物語へと、 メリングの手によって見事に紡がれていく。
私がメリングの物語を好きな理由は、 いろいろとあるが、 ファンタジーとしての魅力だけはでなく、 だいたいにおいて、 そこには、等身大の現実の少女が描かれているからだ。 物語の中の彼女たちがそれぞれに傷つき、 苦しい旅(それは精神的にも)をしながらも、 精一杯に恋をし、その恋と共に成長していく姿が そこにあるからだ。
『夏の王』は、 物語としては独立しているが、 『妖精王の月』の後日譚ともいえるので、 『妖精王の月』から読むと、物語が深まり、 眼前に現れる世界をより楽しむことができるだろう。 (たとえ一瞬でも、かつての仲間たちと再会できる喜び!) しかし、続編というわけではないから、 もちろん独立した魅力がある。
世界は光と影とで織り上げられている。 影のない昼はなく、真に暗闇の夜もない。 人の世界も、妖精や神々の住まう世界もまた同じく、 踏み込むことも、触れることすらも、ためらう闇の領域がある。
主人公ローレルは、 事故死した妹オナーのために、 妖精国とこの世を救うための旅に出る。 その旅は、心の中の悲しみ、苦しみをたどり続ける旅。 悔やんでも、悔やみきれない。悔悟の果て。 妖精国への憧れのために、命を落とした妹。 ローレルは、その妹の魂を救うためにも、 『夏の王』を見つけなければならない。
物語に描かれた、光と影。 光がまばゆければまばゆいほどに 影は色濃く、重苦しくありながらも、 弱い心をあらがいようもなく力強く引きつけている。 そういう心の闇が『夏の王』では、 くっきりと描かれているように思う。 ローレルと共に旅する少年、イアン。 彼の姿に、そういう負のエネルギーを感じた。
妖精達の美しさや狡猾さ。
ローレルの苦悩。
さけられない戦。
喜びと悲しみ。
失うために得るのか、
得るために失い続けるのか。
憎しみからの解放。
いろんな思いがくるくると、
読後も頭の中、心の中を駆けめぐる。
そして、
最近とみに、ロマンス至上主義者となりつつある、
私の中に残った、思いのかけら。
− 世界は悲しみだけではなく、
甘美なロマンスからも成り立っている −
そんなことを思いながら、
美しい物語『夏の王』を閉じることにしよう。
(シィアル)
『夏の王』著者:O・R・メリング / 訳:井辻朱美 / 出版社:講談社
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管理者:お天気猫や
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