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「妖女」と聞くと、どうしても、 「妖女メドゥサ」を思い浮かべてしまう。 加えて、「妖女」と聞いて、すでにタイトルは、 「呼び声」をかたくなに「叫び声」として誤解し続けていた。 かくして私の思うところの、 『妖女サイベルの叫び声』がどんな物語であるかは、 容易に想像していただけるのではないだろうか。 そういう理由で、今まで読む機会がなかったのだ。
岡野玲子の『コーリング(1)〜(3)』を読み終えて、 その美しい世界を堪能し、充分に味わい尽くした後で、 このマンガの原作が『妖女サイベルの呼び声』であると知った。 岡野玲子のイマジネーションの美しさに圧倒されていた私は、 原作も読みたい、そう思うと同時に、 いまさら原作を読んでも、 この物語を豪華絢爛な絵物語として、 知ってしまった今では、 原作はモノクロームの色あせた下絵に過ぎないかもしれないと、 危惧もしていた。
けれども。 言葉には、言葉だけが持つ、美しい魔法がある。 次々と惜しげもなく、流麗に言葉はつづられ、 言葉を越えた、深い美しさをたたえる世界が眼前に広がる。 美しさには、際限がないのだと、 言葉の力に、作家のイマジネーションに、しばし声を失う。 言葉がかき立てる、想像の翼にも、限界はなかったのだ。
隠者として暮らす、エルド山の妖女(魔術師)サイベルが、 人界に触れ、はじめて愛を知り、はじめて憎しみを覚える。 憎しみの果てに、愛をも失い、すべてを失った後、 また愛を手に入れる話である。 愛らしい少年や、誠実な賢者たる騎士、 物知りで世話焼きの年老いた魔女や、 古の吟遊詩人の詩の中に住まうけものたち。
言葉は、今までに見たことがなかったような、 すばらしいタペストリーを織り上げていく。 頭の中で、想像して織り上げたタペストリー、 その現物が、岡野玲子のマンガかもしれない。
あるいは、岡野玲子の絵を見て想像したタペストリーを、 ほんとうに手にとって、その糸の一本一本まで、 細かく、自分の目で追い、手で触れ、 匂いさえかぐことができるのが、原作なのかもしれない。
原作を書店で見かけることは少ないが、 けれど、原作を読むのと同じ喜びが、『コーリング』にはある。 決して、原作のダイジェストでも原作の代用品でもない。 原作に忠実なのに、 そこには、『コーリング』の中だけにしかない、 オリジナリティが確かにあるのだ。 原作は手に入りにくいかもしれないが、 『コーリング』を読むことができるのはしあわせだ。(シィアル)
・『妖女サイベルの呼び声』著者:パトリシア・A・マキリップ /
訳者:佐藤高子 / 出版社:ハヤカワ文庫
・『コーリング』(全3巻)著者:岡野玲子 / 出版社:マガジンハウス
付記:『妖女サイベルの呼び声』は、Kinokuniya BookWebやAmazon.co.jpで、
入手できるようです。
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管理者:お天気猫や
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