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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2001年07月05日(木) --

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『椰子・椰子』 (2)

こんな薄っぺらい文庫で二回分かせぐとは ふとい了見だ、と思われるかもしれないが、 私はこの本のイラストも好きなのだ。 あの妙な人顔の猫の作者、山口マオさん。 巻末対談で川上さんと山口さんはお互いを 「枯れた味わい」と言って誉め合っている。 川上さんのヘンな話に輪をかけてヘンな絵、 絵どころか勢い余って立体オブジェまで作ってしまって、 それが文章と渾然一体となるレイアウト、 さすがだ。

私が房総に住んでいた時、 青い海沿いの道をずっと南の端の燈台まで行って 折り返してくるのがお気に入りのドライブコースだった。 その長い長い海岸線の途中の漁村に数年前、 観光客の立ちよれる気のきいた物産館が立てられた。 大きな体育館のような建物のなかに白いコンクリートの プールのように大きな生け簀があって、 その中には外房の魚がいっぱい泳いでいる。 生け簀の周りは小さな乾物屋やおみやげ屋や雑貨屋が バザール風に並んでいるのだが、その中の一軒が妙に あっさり素朴なのに垢抜けている。 山口マオさんのショップ「海猫堂」だった。

それ以来毎回海猫堂で藍色や茶色の木版風の ポストカード等を買いこんで、 かどっこのカフェでカプチーノを飲みながら 虹色に変化する空と暮れ行く海を眺めるのが ドライブ帰りのおきまりとなった。 いつもぱさぱさの紙の買い物袋に入れてくれる チラシ『海猫通信』も手作りの素朴さで、 それでいてやっぱりレイアウトが洒落ていて秘かに楽しみだった。 いつかTシャツやカップもあ、版画も買おう、と狙いながら 田舎の生活ではあまり贅沢な物は買わなくなるので そのうちそのうちと思っているうちに 私はまたずっと遠くに引越してしまった。

山口マオさんは自画像に片手を上げた人顔猫を描く。 それを見ると私もついつられて「やあ」と片手をあげてしまう。 『椰子・椰子』の変な絵と変なオブジェを見ていると 自分でもこんな変なモノが作りたくなる。 本文を読むとやっぱり変な夢を見て 変な文章が書きたくなるから 薄っぺらくても気に入った本を読むのはなかなか忙しい。(ナルシア)


『椰子・椰子』 著:川上弘美 絵:山口マオ / 出版社:新潮文庫

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