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赤瀬川原平さんは例によって私が勝手に 「師匠」と心に決めた人の一人である。 何の師匠かと言ったら「観察」と「表現」。 こう書くとなんだか凄そうだけど、 「観察」は目があれば誰でも出来る事で ぼーっと縁側で電線に飛んで来る鳥を 見ているだけで立派な観察である。 「表現」では赤瀬川さんは普通の芸術家のように 絵具やら木材やらも使うけれど ただ仲間と何かするだけとか写真を撮るとか、 あとよく「言葉」を使っている。 言葉を使った表現は良い。 なんといっても原価がタダだ。 そのタダでしかもごく普通の素材を使って赤瀬川さんは 見た事や思った事をぴたりぴたりと表現する。 達人だ。 高価で特異な素材媒体を使わなくったって 「表現」は出来るものなのだ、と 貧乏ではないがビンボー症な学生だった私は いたく感じ入ったものだ。
あと一つ大事なのが、「気の抜け具合」。 バブル真只中の都心の一人暮らしで、物欲に踊らされる人々の 渦に巻き込まれる事なく、日々まるっきりマイペースの 街歩きが楽しめたのも、師匠とお仲間の書物の薫陶の賜物である。 後年「老人力」で世間の人々がその気の抜け具合力の抜け具合に 感銘を受けてこぞって赤瀬川さんを崇めたが、そんなのは遅い。 師匠はずっと昔から存分に抜けている。
とはいえ、ここまで気が抜けてていいのだろうかこの写真集。
猫の写真集‥‥と言うには猫が主役というアングルではない。
しかも大半は置き物の猫。
じゃあ世界各国から集めた赤瀬川コレクションの写真集?
かというとやっぱり置き物猫もあまりはっきりとは映っていない。
それならお馴染み路上観察系写真集?
でもあんまりぱっとしない物件ばっかり。
どうって事ない路上物件の脇にちょこんと置き物猫が居る。
どうやら路上観察のついでに撮った
生き猫の映っている写真を集めて
写真集にしようとしたら足りなかったらしい。
それで手持ちの置き猫を路上に置いてみたらしい。
で、そこにちょこっとキャプションをつけてみる。
そうしたらいきなり、ちっちゃいながら「宇宙」が生まれる。
おおっ。
デジカメを手に入れたらこんな事やってみたいな。
本職でもあり中古カメラマニアの赤瀬川さんは
ちゃんとしたライカやイオスで撮影しているけれど
私がそんな事をしたらフィルムがもったいない。
このへんが「達人」と「そうでない人」の違い。(ナルシア)
『猫の宇宙』 著者:赤瀬川原平 / 出版社:中公文庫
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管理者:お天気猫や
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