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平安時代を描く。
なんといっても、このたびのブームの元祖は読み応えがある。
元祖やら本家やら亜流やら、いろいろあるらしいが。
陽が落ちて、野原をそのまま移したような庭を ながめつつ、蝋燭のあかる縁側で酒を酌み交わす── 陰陽師・安倍晴明と、貴公子・源博雅。 誤解を恐れずにいえば、 他人を容易に信じない天才肌の魔法使いと 他人をとことん信じる天才肌のミュージシャン貴族、 どちらも若くて美形。お互いがいることで救いを得ている。 何かというと一緒にいて、女性関係はどこ吹く風。 このコンビの成り立ちは、もともと非常に 少女漫画的な要素が強いと思う。
すでに私の想像するビジュアルは、岡野玲子の絵の世界と 完全に重なっているのだが、数年間青年誌に連載していて いまは少女漫画に移ったとはいえ、 岡野は本来、少女漫画のスターである。
作者公認でもあるし、おおかたの 読者にとっても、どちらが先でも良くなっているのだろう。 夢枕獏は、漫画が追いついてきたので 急いで小説の話を進めていると、この3作目の 後書きに書いている。
小説のほうには小説の、漫画には漫画の それぞれの作法でしか表現できない「なにものか」がある。 ちゅっと鳴く妖怪の声であったり、冷たい視線であったり。
そしてやはりこの小説には、 その時代、その場所に生きていた人々の、 鬼となってもまだ生々しい、想いが漂う。
短編集の随所に歌が読み込まれているのも一興。 その方面に造詣のない私でも、平安時代というものを 現代の横にあるものとして想像することができる。
ちなみに、私のお気に入り短編は、 鬼が歌を詠む「ものや思ふと……」である。(マーズ)
『陰陽師・付喪神ノ巻』 著者:夢枕 獏 / 出版社:文藝春秋
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管理者:お天気猫や
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