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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2001年03月05日(月) --

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『黒祠の島』

帯に「孤島、因習、連続殺人」、 ジャンルは長編本格推理となっています。 しかし。小野不由実さんの最新作ですよ。 まさか殺された人々が次々蘇って襲って来たりしないでしょうねえ (いや、大ブレイクした『屍鬼』はまだ読んでいないんですけど)。 帯には『獄門島』『十角館の殺人』が並び記されています。 どちらも孤島の「意外な犯人」の名作であります。 でも、どっちかというとファンタジー作家として 名高い小野不由実さんですよ。 いや最近用心してかからないと、 今どき古風な普通の謎ときミステリでは なかなか読者をびっくりさせられないものですから、 作家達もあらゆる手段を用いますので。

失踪した友人を探すため孤島に渡った調査員は、 皆一様に何かを押し隠すかのように 事実を語らぬ島民の態度に困惑します。 この現代においても、島には厳然たる支配者と犯し難いルールが 存在し、「他所者」には堅く扉が閉ざされているのです。 主人公は地道な聞き込み調査を続け、 次第に隠された島の惨劇の数々を知るのですが。

じっくりと重苦しい展開ですが、そこは小野さんの得意技、 登場人物達にだんだん好感が持てるようになるので 読み進むのに辛さは感じませんし、 おどろどろしい雰囲気も満点です。 結局丹念に聞き込んだ情報から、この島ならではの 容疑者の「アリバイ」と「動機」が合理的に示されて、 最終的にきちんと犯人が断罪されるのですが。

だったらいいじゃない、今回はちゃんとルールに則った まっとうな本格推理だったんでしょう? そうですね──事件の内容という点においては普通ですね。 でもね、しつこいけれど小野不由実さんなんですよ。 あれだけ用心しいしい読んだのに、 やっぱりびっくりさせられました。 抑えに抑えた墨色の風景の中、 ぱっと幻のごとく緋色が閃くようなクライマックス。 それはある意味彼女の周囲に居る筋金入りミステリ者達が 昔から悩んで来たパラドックスに対する一撃でもあるのです。(ナルシア)


『黒祠の島』 著者:小野不由実 / 出版社:祥伝社ノベルス

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