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思えば高校時代から、この本の背表紙を 学校帰りの書店で立ち読みしていた。 何かの拍子に手に入れたのは数年前で、しかも、 50ページほど読んでそのまま放り出し、 思い立って最初から読み直し、このほどやっと読了。 学生の頃読んでいたら、どんなことを感じたていたか とも思うが、今のほうが良い意味で 距離をおいて読めたのは確かだろう。
つまづいたのは、単純にこの世界に気が滅入ったからだと思う。 前半の樹上生活自体はSFとしてはありふれた設定だし (そういう舞台を最初に描いた作家が、もしかするとオールディス なのかもしれないが)、話の展開はまったく見えなかった。
人類が退化し、植物が王者となる未来の地球。 もはや太陽の寿命もそれほど遠い未来ではない。 最終的には宇宙における生命の進化論にまで言及する、 まさに想像を絶する、壮大な壮大なSFである。 こんな世界を机の上で描きながら、作家というのは 普通の生活もしている(こんな世界を描く人は一見普通に 見えるはずだと思っている)のだから敬服する。
滅び行く世界での人類は、すでに論理的な思考もできず、 女性を頭にした小さなグループでやっと生存している。 無力といってもいい存在である。 文明という武器を失った人類に対して、 いわゆる滅びの美といったような意図的な美化はなく、 途中までは誰が主人公なのかもわからない。 動物的な進化を遂げた植物の姿はただただ暴力的で、 人間と共存しようなどとは考えていない ──ごく一部の寄生生物を除いては。 美しいのは、だんだん描かれてくるマクロの世界 ──最後の輝きを放つ太陽と滅びゆく惑星、 そしてすべての生命の根源。
主人公の少年にしても、知性を持つキノコに寄生され、 奴隷的に精神を共有する状態が続く。 だから、このキノコも主人公であり、植物たちも主人公であり、 作家はこの世界の全体像を描こうとしてはいても、 特定の誰か(=現象)に肩入れしているわけではない。
最後の最後に主人公らしい決断を実行するところが 救いであり、作家の最も伝えたかっただろうメッセージなのだが、 この人も確かにイギリス人である、と思わされる。
細かいところではあるが、この本でおもしろいのは、
翻訳家の苦労が見える植物名。怪物名といってもいい。
オールディスが英語で創作した植物名も多く、
それにふさわしい日本語を選ぶのには苦労があったという。
本書は、1961年に発表され、1962年にヒューゴー賞を受賞。(マーズ)
『地球の長い午後』 著者:ブライアン・W・オールディス / 出版社:ハヤカワ文庫
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管理者:お天気猫や
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