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2010年05月08日(土) 酒癖の悪い男

以前勤めていた会社に、えらく酒癖の悪い男がいた。
普段は腰が低く、年上のぼくに対して、決してタメ口を利くような人間ではなかった。
ところが一滴でも酒を口に入れると、この男はダメだった。
つい五分前まで腰低く敬語を使っていた人が、突然意味もなく胸ぐらをつかんでくる人になるのだ。
その時「何か悪いこと言ったかなぁ?」と、ぼくはけっこう気にしていた。
そのことをある人に言うと、「ああ、あの人、ちょっと酒を飲んだだけでああなるんよ」と、その人は教えてくれた。
その豹変があまりにショックだったので、それ以来ぼくはシラフの時以外の彼に近づかなくなった。

さて、彼の酒癖の悪さを知ってから数年後、彼はぼくたちの前から突然姿を消した。
風の噂では、酒を飲んでいる時に、遊び人風の男にからんでしまい、ボコボコにされ、そのために長期入院を余儀なくされたということだった。
彼の身近な人も、同じようなことを言っていたので、きっと噂は本当だったのだろう。

それからまた数年が過ぎた。
つい先月の話だ。
同級生との飲み会があった。
その中で酒癖の悪さが話題になったのだが、その時ぼくは例の男の話をした。
「…そいつボコボコにされて、長い間入院しとったんよ」
すると、同級生の一人が「おれもそういう人間知っとるよ」と言う。
「そいつもお前の話の人と同じように、ボコボコにされて、長い間入院しとったんよ」
「ふーん、酒癖の悪い奴には、似たような話がついてくるもんやの」
「そうやの。そういえばあいつの名前なんやったかなぁ…。あ、そうそうHSという名前やった」
「えっ、HS?おれの知っとる奴もHSよ」
話を進めていくうちに、それが同一人物だということがわかった。

世間は狭いと言うべきなのか、酒癖の悪い人間はそうそういないと言うべきなのか。


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