ぼくはかなりひどい白髪頭だ。 顔は若いつもりだが頭がいかん。 白髪は二十歳前後から出始め、三十歳の頃はブラックジャック状態だった。
原因は色々考えられる。 まず遺伝。 これはどうしようもないだろう。
次にシャンプー。 ものの本を読むと、今のシャンプーは髪を痛めると書いてあった。 毎朝洗っていたので良くなかったのだろう。
最後に白髪染め。 効果覿面だった。 三十代後半に染めていたことがある。 皮膚の炎症を起こしたのでやめたのだが、色が落ちてくると今まで黒かった所までが白くなっていた。
ここまできてやっと『今後は時間がかかってもいいから、地道に白髪と取り組もう』と思うようになり、「安心」とか「爽快」とかいう本に目を通すようになったのだった。 そこに書いてあった、「米ぬか」「きな粉ドリンク」「黒ごま」「アロエ」「しょうが」といろいろやってみたが効果は現れなかった。 いや、多少はあったのかもしれないけど、あまりに白髪が多いので目に見えなかったのかもしれない。 シャンプーもシャボン玉の石鹸シャンプーに変えてみた。 おかげで髪は健康になったみたいだが、白髪は治らない。 髪を引張って血行をよくすれば治ると言われてやってみたこともある。 が、やりすぎて頭が変形したように思える。
ある時開き直って「おれは白毛人だ!」と言うことにした。 他人から「頭が真っ白やね」と言われても「これは民族の血が流れているからしかたがない」と言っている。
とはいえ、何かいい方法が本などに載っている時にはすぐに飛びついてしまう。 ちょっと前にやっていたのが、オーストラリアで開発されたヘアオイルで、これを使うと毛根に栄養が与えられ、髪が元の色に戻っていくということであった。 取引先の人が「実験台になってくれ」と言うので引き受けたのだが、なぜかしっかり料金を取られた。 発売開始が1957年で全世界1000万人の愛用者がいるということだ。 その愛用者のほとんどが治っているらしい。 しかし考えてみると、1957年というのはぼくが生まれた年で、そんなに長い間愛用されていて、しかもそのほとんどが治っているというのなら、なぜもっと早く日本で話題にならなかったのだろう。 毛生え薬とかはすぐに話題になるのに。 「白髪は毛があるからいいじゃないか」という潜在的なものでもあるのだろうか?
早速ぼくはこのヘアオイルを使っていることをみんなに公表した。 このヘアオイルは約3週間で効果が現れるということだった。
一週目は何も変化がなかったようだった。 ところが、使って2週目に突入した時に「髪が黒くなってきたみたいよ」などと言われるようになった。 「冗談やろ。そんなに早く効果が出るわけないやん」と答えていたが、内心は喜んで真っ黒い頭の自分を想像していた。 また、会う人会う人に「最近、おれ なんか変わったと思わん?」などと言っては、頭が黒くなったのを認めてもらおうとしていた。
3週目に入った。 「やっぱり、黒くなっている」と言われた。 さらに、真っ黒くなる自分の頭を想像した。 さあこれからだと思った時、ヘアオイルが切れてしまった。 「一ヵ月半は持つと言ったやないか」と取引先に連絡した。 取引先は「一日どのくらいお使いですか?」と聞いてきた。 「片手の半分くらい」と答えると、「それは使い過ぎです。人の2倍は使っていますね」と言われた。 使い過ぎとは思わない。 全体に行き渡らせようとするとそのくらいの量が必要になってくる。 結局3週間で終わってしまった。
このヘアオイルは1万円する。 安月給のしがないサラリーマンにとって月1万円は痛い。 『まあいいや、中途半端に治って霜降りみたいな頭になったら、かえって老けて見られる』と自分を慰め、続けることを断念した。
で、今はまた白毛族になっています。 民族の血だからしかたがない、か。
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