夏休みの終わり頃、デパートや量販店に行くと、決まって『引き潮』だとか『避暑地の恋』といったBGMが流れていた。 それまでは、ずっと陽気なハワイアンなんかが流れていたのに、突然そんな物悲しい音楽が流れ出すと、幼いながらも夏の終わりを意識せざるを得なかった。
さらに、何日か前まで店内に飾ってあった氷柱は姿を消し、早くも紅葉のディスプレイになっている。 店はすでに秋模様なのだ。 ただでさえ夏や夏休みが終わるといって悲しんでいるのに、この仕打ちは酷いものだと思ったものだった。
外に出ると、「ワシワシ」だとか「ミンミン」だとかいう声は消え、「ツクツクボーシ」の大合唱だ。 その合唱に混じって、甲高いコオロギの声が聞こえてくる。 「ああ、もう夏は終わりだ」と、実に寂しい気持ちになって、街を後にするのだった。
フォークリフトに気を取られて忘れていたが、この日記の最終回まで二ヶ月を切っていた。 そのため、ちょっと時機を逸した感があるが、来年の夏には日記を書いてないだろうから、夏の思い出を書いてみた。
ところでその最終回の日、この夏の終わりのような、もの悲しさを感じているのだろうか? それとも、日記から解放された喜び一杯でいるのだろうか? 今時点では、それが読めない。 その日は、『引き潮』や『避暑地の恋』だけは部屋で流さないようにしておこう。
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