かつてぼくは、すべての場面で緊張していた。 学生時代、授業中に先生から「はい、しんた君、次読んで」などと言われるともうだめで、腹は痛くなるし、心臓が口から飛び出てくるような感じがして、うまく読むことが出来ない。 柔道の試合では、緊張のあまりに体が動かず、それでしばしば負けていた。 また野球の試合では、好きに打っているうちはよかったが、コーチからバントのサインが出ると、とたんに緊張してしまい、失敗していた。
社会人になってもそれは治らず、少人数で行ったカラオケでは緊張のあまり腹が痛くなり、その場に座り込んだこともある。 ぼくの人生は、そういう経験の重なりで成り立っているために、自分は緊張負けするタイプで、本番に弱い人間なのだと勝手に思っていた。
フォークリフトは、運転免許の本検のように、講習最終日に実技の試験がある。 そのため、ぼくはかなりの緊張を予想していた。 ところが、本番ではそれがなかった。 いや、あったものの、よくスポーツ選手とかが言っている「いい緊張」といった類のもので、その緊張が妙に心地よい。 そのおかげで、ガチガチにもならず、だらけもせず、本番を終えることが出来たのだった。
何でそういうふうにうまくいったのかというと、考え方を変えたせいだと思う。 これまでは緊張を、自分だけを狙い撃ちしてくる魔物のように思い込んでいたのだが、どんな人でも緊張するのだというのが、今回のフォークリフトの講習でよくわかったのだ。
何人かの経験者がこの講習を受けていたが、初日は全員まったくと言っていいほど様にならなかった。 なぜかというと、「経験者だからうまくやらないと」という思いが、プレッシャーになり、それが緊張に変わったからだと思う。 それを見てぼくは、「やはり緊張しているのは自分だけではない。こういうベテランだって緊張するんだ」と思ったのだ。 そしてそう思ったことで、心が軽くなったわけだ。
|