(1) 昨日、滝を見た後に山水を汲みに行った。 オナカ君は水マニアで、いつでも持ち帰りが出来るように、いつも車にポリ容器やペットボトルを積んでいる。 どうやら、昨日の小ドライブも、それが目的だったようだ。
行き先は英彦山だった。 そこの水は市販されているくらいだから、かなりの名水だ。 九重町から耶馬溪に戻り、そこから山国町経由で英彦山に登った。 途中、台風のせいで土砂崩れしていると、張り紙がしてあった。 だが、オナカ君はそんなことお構いなしに、どんどん進んでいった。 途中何ヶ所か木が倒れているところはあったものの、通行には支障はなかった。
数十個あるカーブを曲がり、車は無事に目的地の豊前坊(高住神社)に着いた。 夕方の豊前坊はヒグラシの声に包まれていた。 空気がひんやりとして気持ちいい。 水は山頂の方から、チョロチョロと流れてきていた。 少し飲んでみたのだが、冷たくておいしい。 オナカ君は、そのおいしい水をポリ容器3つに入れた。 20リットルの容器が1個、10リットルの容器が2個だったから、計40リットルである。 オナカ君はそれで満足したのだろう、長居せずにすぐに山を下りたのだった。
(2) 修験道のメッカである霊峰英彦山は、福岡県で一番高い山(標高1200メートル)である。 ぼくは、車では何度も行ったことがあるが、歩いて登ったことは二度しかない。 中学2年時の遠足と、高校2年の時に1年時の同級会遠足でだ。 山の中腹にある駐車場から山頂まで、ずっと石段を登って行くのだが、これが山道を歩くよりきつく辛い。 翌日は足がパンパンに張っていたのを憶えている。
そうそう、中学2年時に英彦山に行った時のこと。 行きのバスの中で、友だちが森田健作の『友達よ泣くんじゃない』を歌った。 それがえらく好評で、翌日担任の先生に名指しで褒められたのだ。 先生は他にも歌の上手い奴の名前を何人か上げていたが、ぼくはそれを聞いて、なぜか嫉妬していた。 実は、その時ぼくは歌ってはいない。 歌える歌もなかったし、何よりも緊張して歌えなかったのだ。 歌ってないのだから、ぼくが褒めらることはないのだが、それでもぼくは嫉妬していた。
それからだ、ぼくが歌の練習を始めたのは。 とにかく、3年時の遠足と修学旅行で、「歌の上手い人」と評価されるようになろうと思ったのだ。 それからおよそ1年後、ぼくは遠足の時にあがた森魚の『赤色エレジー』を歌った。 必死に歌のを練習した甲斐あって、みんなの視線を一身に集めた。 ところが、もらった評価は「歌のうまい人」ではなく、「変な人」だった。
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