配達帰りのこと。 ちょうどスペースワールドの横を通っていた時に、トラックの運転手が、 「あの新しい乗り物(ザターン)、いつからかねえ」と聞いてきた。 「今月の29日からですよ」 「もうすぐやねえ」 「乗りに行かないんですか?」 「行くわけないやない。あんなのに乗ったら気分が悪くなる」 「おれ、乗りたいですよ」 「ああいうの、好きなんね?」 「大好きです。下腹がムズムズするような感覚がいいんですよ」 「うーん、よくわからんなあ…。そりゃそうと、今日は試運転してないねえ」 「雨がパラついているからじゃないですか」 「ああ、そうかもしれん」
そういう話をしている時に、ちょうどザターンの横にさしかかった。 その時だった。 助手席に乗っているぼくの横を、ザターンが「ゴーッ」という音を立てて、走り抜けたのだ。 運転手もそれに気づき、二人で「行ったー」と叫んだ。 その叫び声が終わる前には、ザターンはもう頂上まで上り詰めていた。 そして、急降下して一気に下まで降りてきた。 トラックがザターンの横を通り抜ける、ホンの数秒の出来事だった。
「すごいねえ、あれ」 「速かったですねえ」 「あっという間に頂上やったねえ」 「ええ。エンジン、何を使ってるんですかねえ?」 「ロケットエンジンやろうか?」 「それじゃあ火を噴くじゃないですか」 「ああ、そうか。やっぱりワイヤーみたいなので引っ張るんかねえ?」 「いくら機械で引っ張るとしても、あれだけのものを一気に頂上に持って行けないでしょう」 「うーん」 「ペットボトルロケットの原理ですかねえ」 「空気圧くらいじゃ、あんな重たい物を動かすことは出来んやろう。おそらくバネやろかもしれん」 「パチンコじゃないですか」
ザターンの試運転を目の当たりにし、興奮したメカ音痴の二人は、職場に戻るまで延々と議論を闘わしたのだった。
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