頑張る40代!plus

2005年11月22日(火) 20日の事件(2)

Hさんが休んでいたということで、イトキョンはそれとなく信じたようだった。
ぼくはイトキョンをかつぐことが出来たので満足していた。
ところが、それだけでは満足できない人がいた。
Kさんである。
ぼくが考えた入院話に、3千円徴収を乗せたのもKさんだった。
話はそれだけでとどまらなかった。

昼過ぎ、その日早番のイトキョンと交代で、中番のMさんが出社してきた。
Mさんはぼくの売場に来ることは、滅多にない。
ところがその日は違った。
血相を変えてぼくのところにきたのだ。
「どうしたんですか?」
「昨日は大変やったらしいね」
「ええ」
「でも、急なことやったねえ」
「そうですねえ」
「Hさんは、子供さんおったんかねえ?」
「いますよ」
「若いんかねえ?」
「いや、もう社会人ですよ」
「ああ、それならよかったねえ」
「?」
「で、今日は何時から?」
「えっ、何がですか?」
「お通夜よ」
「えーっ!?」
「さっきKさんが言ってたよ。今日Hさんのお通夜だって」

ぼくはそれを聞いて、思わず吹き出してしまった。
「えっ、何がおかしいと?」
「いや、Kさんがそう言ったんですか。ハハハ…」
「違うと? …あっ、もしかして騙したんやね」
そう言うとMさんは怒って売場に帰っていった。

しばらくして、薬局に行ってみると、Mさんと話していたイトキョンがぼくを見つけて言った。
「もう、しんちゃん嘘つきなんやけ」
「何が嘘つきなんね」
「Hさん、死んでないやん」
「あ? それ言うたのKさんやないね」
「でも、しんちゃんも入院したと言ったやないね」
「言うたよ。でも、おれは人を殺したりはせん」
「どうせ、入院も嘘なんやろ?」
「嘘やないよ」
「もう、信じんけね」
「普通、救急車で運ばれたりしたら、何でもないでも、一応検査入院するやろ」
「うん、するよ。…あ、そうか」
「ほら、嘘やないやろ」
「うん」

イトキョンが帰ったあと、ぼくはMさんに本当のことを話した。
「そうやろ。わたし昨日遅番やったけ、ちゃんとHさん見たもんね。Kさんから話聞いたときも、おかしいと思いよったんよ」
「もし死んどったら、店の中の空気が、それとなく違ってくるじゃないですか」
「そうよね。いつもと変わらんかったもんねえ。それで、イトキョンはまだ信じとると?」
「さすがに死んだというのは嘘とわかったみたいやけど、入院は信じとるみたいですよ」
「イトキョンらしいね」
「いつまで信じとるか楽しみですね」
「いや、きっともう忘れとるよ」
「えっ、そうなんですか?」
「うん。あの人、いつも、その日の夕飯のことしか頭にないもんね」


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