お「そういえば、6月にビートルズが来たんやったねえ」 小「うん」 お「テレビで見たやろ?」 小「見たけど…、よくわからんかった」 お「あと何年かしたら、わかるようになるよ」 小「ふ−ん。でも、ぼくは加山雄三のほうがいい」 お「ああ、そうやったね。でも、加山雄三ももうすぐ飽きてくるよ」 小「えっ?」 お「もうすぐタイガースというグループが出てきて、そっちが好きになるよ」 小「タイガース?」 お「うん」 小「阪神ですか?」 お「いや、ビートルズみたいなグループ」
小「ちょっと聞いていいですか?」 お「何ね?」 小「おいちゃんの時代は、西鉄ライオンズ強いですか?」 お「ああ、そのことか。あのねえ、この時代には、もう西鉄ライオンズはないんよね」 小「えーっ、西鉄ライオンズないんですか?」 お「うん」 小「じゃあ、福岡にプロ野球のチームはないんですか?」 お「いや、あるよ」 小「どこですか?」 お「ソフトバンク」 小「何ですか、それ?」 お「あのね、あんたのおる時代に、区内の引野小学校におった人が、作った会社なんよ」 小「引野小の人が?今、その人何年生ですか?」 お「同い年やけ、3年生」 小「ふーん。ソフト・バンクスというんですか?」 お「いや、福岡ソフトバンク・ホークスというんよ」 小「え、ホークスなんですか?」 お「うん」 小「南海じゃないんですか?」 お「南海は今から17年前、あんたの時代からだと22年後に、ダイエーに身売りしてね、それで福岡に来たんよ」 小「ダイエー?」 お「うん。今は知らんやろうね。もうすぐ黒崎に出来るよ」 小「ふーん。で、ライオンズはどうしたんですか?」 お「ライオンズは今から27年前、あんたの時代からだと12年後に西武に身売りして、埼玉に行ったんよ」 小「うーん、よくわからん。で、そのソフト何とかって強いんですか?」 お「強いよ」 小「へえ。監督は野村ですか?」 お「いや、王監督」 小「えっ、王監督って、王貞治ですか?」 お「そうよ」 小「巨人もなくなったんですか?」 お「いや、巨人はあるよ。まあ、ないみたいなものやけどね」 小「じゃあ、巨人は長嶋が監督なんですか?」 お「いや、違うよ」 小「国松ですか?」 お「違う」 小「柴田ですか?」 お「違う」 小「城之内」 お「違うなあ」 小「じゃあ、堀内ですか?」 お「惜しいなあ。今年まで監督やった」 小「誰なんですか?」 お「今、昭和41年やったねえ?」 小「うん」 お「じゃあ、去年の夏の甲子園の優勝校、知っとる?」 小「えーと、どこやったかねえ?」 お「福岡県の高校」 小「ああ、三池工業」 お「うん。そこの監督の息子が、今度監督になるんよ」 小「何という人?」 お「原というんよ」 小「ふーん」
そこまで話して、ふと「これからこういうことが起こるから、絶対にこういう行動をとるなと教えてやろう。こんなチャンスは二度とない」と思った。 ところが、無情にも夢はそこで醒めたのだった。 実におかしな夢だった。 もし、次にこういうことがあったら、その時は、そこから話を始めよう。 もしかしたら、それで今のぼくの人生が変わるかもしれないのだから。
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