前々から、仕事で履いている靴が、何ヶ所かほころんでいるのが気になっていた。 梅雨時期にこんな靴履いていたら、雨が降った時、水が染みてくるだろう。 そこで昨日、うちの店で売っている靴を買うことにした。 うちは専門店ではないので、ブランド品はあまり置いてないのだが、仕事履きになるような安い靴はけっこう揃っている。 安いとはいえデザインもそこそこいいものがある。 ぼくはいつも、その中でも比較的高値の靴を選んでいる。 安い靴だと長持ちしないのだ。 いくつかの候補を選び、履いてみた。 その中に一つだけ目を引く靴があった。 アメリカ製で、履いてみるとゆったりとしていい感じだった。 さっそくそれを買うことにした。
購入後、すぐに今まで履いていた靴を捨て、新しい靴に履き替えた。 いい感じの靴というのは、履いていて実に気持ちがいい。 しばらくその気持ちよさに酔いしれていた。 ところが、1時間経ち2時間経つうちに、だんだん靴が重く感じるようになった。 「おかしいなあ、さっきはこんなじゃなかったのに」 ひもの具合が悪いのかと思い、ひもを何度か調整してみた。 が、相変わらず靴が重い。 そのうち、だんだん足の甲が痛くなってきた。 すでにその頃には頭も痛くなっていた。 もう最悪の状態である。 頭はしかたないにしろ、せめて足だけは何とかしたい。 「古い靴に履き替えよう」 そう思ったぼくは、ゴミ捨て場に、先ほど捨てた古い靴を探しに行った。 ところが、もう遅かった。 すでにゴミは処理された後で、結局そのまま、足痛に耐えることになった。
さて、昨日さんざんな目にあったので、今日は家にあった靴を履いていった。 しかし、その靴も長いこと履いてないので、足になじまないのだ。 どこか窮屈さを感じる。 我慢していれば慣れるだろうとは思ったが、2日続けて足にとらわれるのもいやである。 そこで、「しかたない。もう1足買うか」ということになった。 幸い靴売場には、昨日捨てたものと同じ靴が売っていた。 古くなったので捨てたものの、履きやすさは最高だった。 迷うことなく、ぼくはその靴を買うことにした。
その後、ぼくは足の苦痛から解放された。 夕方、履き物の取引先の人がやってきた。 「昨日はさんざんな目にあったよ」 「どうしたんですか?」 「いやね…」と、ぼくは昨日のことをその人に話した。 「で、どれ選んだんですか?」 「これ」 「えっ、これを選んだんですか?」 「うん」 「これは、登山とかに履く靴じゃないですか」 「えーっ!そんなこと書いてないやん」 「書いてはいませんけど、裏見てください」 見てみると、靴の裏がスパイクのようになっている。
「重かったでしょ?」 「うん」 「ゆっくり歩くのならともかく、こういうのを仕事なんかで履いていると、頭が痛くなったりしますよ」 「頭が痛くなる?」 「ええ、腰から首にかけて負担がかかるんですよ」 「昨日、確かに頭痛がしたけど…」 「でしょう。これが原因ですよ」 「いや、昨日のはクーラー病やったけど」 「じゃあ、ダブルできたんですよ」
それで、昨日はいつまでたっても頭痛が治らなかったのか。 いつまでたっても治らないので、一時は、くも膜下出血にでもなったんじゃないか心配したほどだ。 ま、二日続けて靴を買うという、馬鹿なことをしたものの、頭痛の原因がわかって、ホッとした次第である。
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