5月6日の日記に書いたが、ぼくは20代後半に、バンドの人たちと会うためにダンスホールに通っていた。 そのダンスホールは、ダンスホール兼ホストクラブといった感じの店だった。 帳場以外に女性の従業員はいなかった。 つまり、お客の相手はすべてホストがやっていたのだ。 ダンスホールであるから、お客のほとんどはグループが多かった。 しかし、女性一人で来ている人もしばしば見受けられた。 そういう人たちは、みなホスト目当てだったのだ。
ホストにはいろいろなタイプの人がいた。 ツンとしたタイプの人もいれば、妙に愛想のいい人もいた。 ぼくと嫁ブーは一時期ほとんど毎日そこに行っていたのだが、ツンとしたタイプの人はぼくたちの存在をあまりよく思っていなかったようだった。 それが気になって、ある時バンマスに「あまりここに来たら迷惑じゃないんですか?」と聞いたことがある。 バンマスは「気にせんでいいよ。しんちゃんたちは、ぼくたちの大事なお客さんなんやけ」と言ってくれた。 それで少しは安心した。 なるほど、よく思ってないというのは、ぼくたちがバンドのお客だったので、自分たちとは関係ないと思って無視していたのだろう。 そう思うことにした。
その一方で、「おっ、今日も登場やね」と気安く声をかけてくるホストもいた。 その人たちは、暇になると決まってバンド部屋に来ていた。 人生経験豊富なバンマスに、いろいろ相談したりしていたようだ。 そういう人たちの中に、『せいちゃん』という人がいた。 痩身でイケメン揃いのホストの中にあって、一人デブで顔は人並みだった。 が、そのキャラが受けていたのか、お客さんの指名がやたら多かった。 とはいうものの、指名するお客のほとんどは、年配の男性だったが。
せいちゃんにはある特徴があった。 それは、シャツが短いということだった。 Yシャツもアンダーシャツもそうだったのだ。 わざとそうしているのではなかった。 せいちゃんは、身長の割に胴が長かったのだ。 そのため、せいちゃんの背中はいつもはだけていた。 さらにズボンがずれるので、BVDのブリーフが見えることもあった。 しかし、せいちゃんはそういうことには無頓着だったようだ。 ぼくが「せいちゃん、パンツが見えよるよ」と言っても、せいちゃんは「ああ、そうですか」と言ったっきりで、別にそれを気にしているふうでもなかったのだ。
そういえば、せいちゃんは暇になると、いつも背中がはだけたままの格好でバンド部屋に来ていた。 そこで、いつもこぼしていた。 「バンマス、ぼくこの仕事に向いてないみたいなんですよ。やっぱり他の職を探したほうがいいですかねえ?」 バンマスは、いつも同じ受け答えをしていた。 「いや、せいちゃんはホストが天職だと思うよ」 するとせいちゃんは、こう言った。 「うーん、やっぱりそうですかねえ」 バンマスは笑いをかみ殺して言った。 「うん、せいちゃんほどホストの似合う人はおらんよ」 せいちゃんはバンマスのその言葉で、完全に吹っ切れたようだった。 「そうですよね。そうそう、ぼくほどホストの似合う男はおらんやったんだ」 そう言って、せいちゃんは店に戻っていった。 せいちゃんが出て行ったあと、バンマスはいつもぼくの顔を見てニヤリと含み笑いをするのだった。
いつだったか、バンドメンバ主催のワインパーティに呼ばれたことがある。 そこにはせいちゃんもいた。 みんなラフな格好で来ていたのに、なぜかせいちゃんはホスト姿で来ていた。 もちろん、その時もせいちゃんのシャツは短かった。 いつものようにブリーフも見えたのだが、その日はベルトをゆるめていたせいか、そのブリーフまでずれて、お尻が半分出ていた。 ぼくと嫁ブーは、せいちゃんの後ろにいたのだが、そのせいで、ずっとせいちゃんのお尻を見ながら飲む格好となったのだ。 あまりきれいなお尻とは言い難く、太っているわりには、小さなお尻だった。
あれから十数年が経つけど、せいちゃんは今どうしているのだろう。 他の職に就いたのだろうか? それとも、相変わらず天職(笑)で頑張っているのだろうか?
|