頑張る40代!plus

2005年05月07日(土) 大きな迷子

何日か前のことだった。
午前中、ぼくは倉庫で作業をやっていた。
それが一段落したあと店に戻ったのだが、店では特にやることもなく、売場の入口のところにボーッと突っ立っていた。
しかし、ボーッと突っ立っているだけでも、何人かのお客さんに「この商品はどこにあるか?」と日替わり商品のありかを聞かれ、その都度そこに案内していた。
案内が終わると、また元の場所に戻って立つ。
何度かそういうことを繰り返していた。

そういう折、どこからともなくローラーシューズを履いた女の子が現れた。
小学校中学年くらいだろうか、わりと背が高かった。
その子が、ぼくの目の前を滑りながら行ったり来たりしている。
危ないので注意しようと思ったら、どこかに行ってしまった。
またしばらくして、今度はぼくの後ろに人の気配を感じた。
振り返ってみると、その子が立っていた。
じっとぼくのほうを見ているのだ。
しかし、ぼくと視線が合うと、また滑ってどこかに行ってしまった。

そのうち、ぼくもそこに立っていることに飽きてしまい、店内をぶらついていた。
すると、先ほどの女の子が現われ、ぼくのあとを追いかけるようにしてついてきた。
ぼくは無視して、狭い通路に入った。
もう追いかけてこないだろうと思っていると、女の子はその通路の出口のところに先回りしていた。
その子の横を通り過ぎた時だった。
その子が声をかけてきたのだ。

「あのー、迷子なんですけど」
「えっ、だれが?」
「わたしでーす。おかあさんと金魚見ていたらはぐれてしまったんでーす」
迷子とは言うものの、別に泣いているわけでもなく、焦った顔もしていない。
妙にあっけらかんとしているのだ。
「そう、迷子になったんね。じゃあ、こっちにお出で」
ぼくはそう言って、サービスカウンターに連れていった。
その子は、ぼくの後ろを滑りながらついてきたのだが、何かその状況を楽しんでいるようにも思えた。

サービスカウンターに着き、さっそくぼくは女の子に質問した。
「お名前は?」
「○○でーす」
「歳は?」
「8歳でーす」
「住所は?」
「×町でーす」
ぼくはそういったことをメモに書いたあと、「迷子です。お願いします」と言って、メモを係に渡した。
係の人は「えっ、迷子?」と言いながらその子を見た。
ぼくが「大きな迷子やろ」と言うと、係の人は笑いながら「うん、ホント大きな迷子やね」と言った。
係の人はさすがに「迷子」と言うのに気が引けたのか、店内放送では「×町からお越しの○○さんのお母さま、お連れさまが当店サービスカウンターでお待ちでございます」と言ったのだった。

さて、店内放送はしたものの、お母さんはしばらく来なかった。
その間、その大きな迷子は不安がっていたのかというとそうではなく、お母さんが来ないことを全然気にしていないようで、あっけらかんとした顔をして、カウンター周りをローラーシューズで滑っていた。

それからしばらくして母親がやってきた。
大きな迷子は別に喜んだふうでもなく、ヘラヘラ笑いながら、母親の後ろを滑って帰って行った。

何と言ったらいいのか…。


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