一方の友人は、ぼくと同じ質問に対して、「私はいろいろと都合がありまして、いつかと聞かれても困るんですが、今やっていることが終わり次第、参加させてもらおうと思っています」と答えていた。 彼は高校時代、そうしゃべる方でもなかったし、こんな回りくどい言い方をする方でもなかった。 『この変貌は何なのだろう』と思いながら、ぼくは友人のペラペラをずっと聞いていた。
面接官もこのペラペラには呆れていたようだった。 彼がなおもしゃべろうとするのを遮って、「わかったわかった。とりあえず君は都合がよくなってから来てもらうことにしよう。で、そちらのしんた君は、来週から来てもらうということでいいね」と言って、面接を終わらせたのだった。
帰り道、ぼくは友人に、「おまえよくしゃべるのう」と言った。 すると彼は、「ばか、面接の場では自分を売り込まんと」言った。 確かに面接の場は自分を売り込む場であるのだが、ああしゃべりすぎるのも問題がある。 おしゃべりな人というのは、自分に自信がない人と思われるものである。 そのため、面接などではかえって逆効果になるものだ。 だいたい、アルバイトの面接で、自分の生い立ちからしゃべる人間はいないだろう。 しかも、相手は運送会社の大将、いろいろなトラックの運転手を使っている身なのである。 そういう人を前にして、さも面接慣れしているように「私は…」はないだろう。 まあ、「おれは…」と言うよりはいいかもしれないが、せめて「自分が…」くらいでよかったのではないだろうか。
さて、その夜のことだった。 その友人から電話が入った。 「悪いけど、おれ、他のバイトが決まったんよ」 「えっ?」 「いや、前々から応募しとったところがあって、さっき『来てくれ』と電話が入ったんよ」 「じゃあ、Y運送には行かんとか?」 「おう。悪いけど、おまえ一人で行ってくれ。おれは先方に断りの電話を入れとくけ」
何と言うことだろう。 ぼくは最初、そこに行くことに気が進まなかったのだ。 友人がいっしょに行くと言うから、行く気になっていたのに、行かないとなると、それは考えものである。 『しかし…』 ぼくはその年の前半のことを思い起こした。 あの頃は何度面接を受けてもだめだったのだ。 その頃のことを考えると、面接に受かるということ自体が、夢のような話である。 それだけ自分が進歩したのだと思った。 そこでぼくは、「これもまた、運命の一環かもしれん」と思い、一人でそのバイトに行く決心をしたのだった。
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