頑張る40代!plus

2004年12月06日(月) 忘年会に行く(下)

タクシーは、信号待ちで、そのパトカーの横で停まった。
車が停まると同時に、運転手はほくのほうを振り返った。
「見ましたか?」
「え?」
「死んでましたねえ」
「ええっ!?」
「外に人が倒れてたでしょう?あれは確実ですよ。その横にあった車、へしゃげてましたからね」
そう言われ、ぼくは後ろを振り返って、もう一度事故現場を見た。
が、雨で運転手の言う、外に倒れている人は見えなかった。

信号が青になり、タクシーは出発した。
ところがである。
100mほど走ったところで、またもや運転手が「ありゃー」と言った。
今度は何かと思って外を見てみると、なんとまたしても事故である。
こちらは接触事故らしい。
どちらの事故も、この土砂降りの雨の中を飛ばしていて起きたのだろう。
対向車線は下りだから、きっと帰宅途中での事故なのだと思う。
あとは家に帰るだけなのに、いったい何を焦っていたのだろうか。

そこを通り過ぎて、またもや信号に引っかかった。
すると、運転手は再びぼくのほうを向いて、「死んでたでしょ?」と言う。
ぼくは見てないので何とも言えなかった。
仕方なく、「そういえば、先週この信号の前で事故を見ましたよ」と言った。
「接触ですか?」
「それはどうかわからなかったけど、救急車が来て担架に乗せられてましたよ」
「死んでたですか?」
「さあ?でも、担架上の人は血まみれでしたよ」
「そうですか。じゃあ死んでるかもなあ…」
この運転手は、よほど事故死に興味があるらしい。
案外そのタクシー会社では、事故死を見ることが自慢になるのかも知れない。

そういう話をしている時に、またしても口の中に血がたまってきた。
窓を開けて吐き出そうかと思ったが、大降りの雨はまだやんでいない。
開けたらびしょぬれになるのは必至である。
そこで、目的地まで我慢することにした。
あいかわらず運転手は、さっきの事故の話をしていたが、ぼくにはもう答えることが出来なかった。
答えると、口から血があふれ出すかもしれないからだ。
運転手はそれ以降その話をしなくなった。
それは、急にしゃべらなくなったぼくに気を遣ってのことではなかった。
目的地が近づいたからだった。

お金を払って、降りようとしていると、またもや運転手はぼくに
「やっぱりあれは死んでましたよねえ」と言った。
執念深い人だ。
しかし、これにには答えないわけにはいかない。
とはいえ、見てないものは見ていないのだ。
そこでぼくは、
「よく見えなかったもんで」とひと言いってタクシーを降りた。

タクシーを降りてから、ぼくはすぐに血を吐き出した。
吐き出す時、傘で見えなくしていたから、道行く人に不審がられることはなかった。
もし、これが晴れた日なら、結核患者か何かと間違えられていただろう。
血を吐き終わってから、ぼくは何気ない顔をして忘年会会場に向かったのだった。


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