『左遷』を書いているうちに、いつの間にか12月になっていた。 当初『左遷』は、通常の日記のように「上」「中」「下」、もしくは「前」「中」「後」くらいで終わろうと思っていた。 ところが、書いているうちに、あれもこれもと書き添えてしまったため、結局は12日間に及んでしまった。 『左遷』に関しては、まだまだ書き足りないことがあるのだが、それは追々書いていくことにする。
さて、この12日間だが、特に大きな事件もなく過ごしてきた。 が、一つだけ日記に書けるような出来事があった。 それは、とうとうぼくの歯医者通いが始まったことだ。 以前から歯茎が腫れたりして、痛みはあったのだが、適当に散らしておいた。 ところが、11月27日の夜、いよいよ耐えられなくなったのだ。 その時は、別に歯茎が腫れたわけではない。 以前から左上の親知らずに大きな穴が空いており、そこに神経が飛び出ていた。 その神経が疼き出したのだ。 疼くのは歯や歯茎だけではない。 その親知らずが生えているほうの顔全体が疼くのだ。 それでもぼくは我慢しようとしたが、その痛みは引こうとしなかった。 そこで意を決して、11月30日の休みに歯医者に行くことにしたのだった。
さて、歯医者に行くにあたって一番悩んだのが、どの歯医者に行くかということだった。 家が大団地街にあるので、近所にはいくつも歯医者がある。 しかし、そのすべてが名医なわけではない。 そこで母に聞いてみた。 「×歯科に行こうと思っとるんやけど、どうなんかねえ」 「あそこはヤブよ」 「え、そうなん?」 「うん。前に行ったことあるんやけど、いざ抜く段階になって『うちじゃ抜けませんから、大学病院に行って抜いて下さい』と言うんよ。歯も抜ききらんで、よく歯医者の看板上げとるよねえ」 「そうやねえ。大学病院で歯を抜くなんか、考えただけでも怖いね」 「そうやろ」 「じゃあ、どの歯医者がいいと?」 「隣の奥さんが行きよるとことかいいんやない?」 「どこ?」 「最近マンションが出来たやろ」 「中学の裏の?」 「うん。そのマンションの前にある歯医者さん。あそこはいいらしいよ。先生が優しいらしいけ。隣の奥さんだけじゃなく、この団地の人はみんな行きよるみたい」 「へえ。じゃあ、そこに行ってみるか」 ということで、中学の裏にある歯医者に行くことにした。
ということで、30日の午前中に、ぼくは歯医者に行った。 まずその造りに驚いた。 そこは歯医者というより、普通の新築の家だったのだ。 ぼくが今まで行った歯医者は、だいたいどこもガラスの押し扉があって、そこに『○○歯科』と書いていたものだ。 しかし、その歯医者は、押し扉ではあったものの、一見普通の家の玄関のような造りになっており、そこには『○○歯科』などとは書かれていなかった。 もし看板を上げてなかったら、見逃していたことだろう。
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