さて、それからしばらくしてのことだった。 店内である噂が流れた。 それは、店長が飛ばされるという噂だった。 電子レンジの件で、店長の本社での評価は下がった。 が、その後ちゃんと処理をしていれば、ある程度の汚名返上は出来ただろう。 ところが、その処理は思うように進んでいなかったのだ。 そのために、さらに評価を落としたということだった。 そういえば、電子レンジキャンペーンが終わった頃から、何度も本社の人間がやってきた。 きっと、その調査だったのだろう。
映像キャンペーンが残り一週間になった時だった。 本社から辞令が回ってきた。 それを見ると、何人かの人間がうちの店を出て行くようになっていた。 噂どおり、その中には店長も入っていた。
それに伴って、うちの店内も組織改正が行われた。 ぼくは店長に呼ばれた。 これで三度目である。 「しんた君。君は楽器売場に復帰してもらうようになった。映像部門に比べると小さな売場だが、また元の責任者に戻るわけだから…。まあ、頑張ってくれ」 これでぼくは、ようやく元の売場に戻れることになった。 だが、楽器売場は楽器売場でいろいろ問題を抱えていた。 ぼくの後任の人間が、テッポーを打ちまくっていたのだ。 その金額は、翌月の予算より多かった。 そのおかげで、2ヶ月間、ぼくはその処理に追われることになる。
ぼくが辞令を受けてから数日後、新体制がスタートした。 店長は新しい店長を迎えると、すぐに転任地に向かった。 その店は、四国の田舎町にあり、うちの店よりも規模が小さく、従業員数もうちの半数程度しかいない店だということだった。 つまり格下げになったということだ。
その後も、その店長は、いなか町店と同じような中規模の店ばかり回された。 それでも負けずに、店長なりに再起を狙っていたらしかった。 ところが、ある店にいる時に事件を起こした。 何と仕事中に店を抜けだして、ゴルフやパチンコにふけっていたのだ。 それを社長に見つかってしまい、さらに格下げされてしまった。 最終的に回された勤務地は、従業員数が十人ほどしかいない、小さな店だったという。 今、彼は本社にいるらしい。 もちろん、閑職である。 彼は間もなく60歳になるから、このまま再起できないままに定年を迎えることになるのだろう。
店長の、うちの店に来る前のポストは、本社でも花形の商品部部長だった。 その後栄転で、本店に次ぐ大型店だったうちの店にやってきた。 しかし、そこで汚点を残してしまった。 そして、その後はどんどん格下げされ、最終的には本社に戻れたものの、その席はかつての華やかな席ではなく、定年前の閑職の席でしかなかった。 それが彼の、社会人としての後半生だった。 つまり、ぼくを左遷した時から、彼の左遷人生が始まったのだ。 思えば皮肉な話である。 (完)
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