| 2004年11月07日(日) |
拓郎のコンサートでの話(2) |
いよいよ当日。 福岡で例の拓郎ファンである取引先のT君と落ち合った。 「今日は特別席を用意してくれとるらしいよ」 「そうなんですか」 「特別席と言うくらいやけ、かなりいい席なんやろね」 「ぼく知ってますよ。接待で行ったことあるんですけど、VIPルームでしたよ」 こういう話をしながら、ぼくたちは会場に向かった。
会場に着いたぼくたちは、開場待ちしている観客の横を通り抜け、係員のいる入口に行った。 「あのう、S社のKさんを呼んでほしいんですが」 「S社のKさんですか?」 「はい」 「お待ち下さい」 係員は首をかしげながら、奥に入っていった。
5分ほどして係員は戻ってきた。 「S社の方は誰も来られていないようですが」 「えっ?」 「お約束をされていたんですか?」 「はい。6時にここで待っていてくれということだったんですが…」 「そうですか…。じゃあもう一度聞いてみます」 係員は、近くにいたフォーライフの関係者らしい人に耳打ちをした。
今度はその人がやってきた。 「今日S社のKさんと待ち合わせしていたんですか?」 「ええ」 「Kさんが今日来るとは聞いていませんが、どういう内容だったんですか?」 ぼくはKさんが拓郎のコンサートに招待してくれた旨を、その関係者氏に言った。 「…ということで、ここで6時に待ち合わせていたんですが…」 「そうだったんですか。それは困りましたねえ。ちょっとお待ち下さい。S社に連絡とってみますから」 「すいませんねえ」
10分ほど待たされただろうか。 ようやく、その関係者氏が戻ってきた。 「わかりました。S社に電話している時に、Kさんから連絡が入りました」 「そうですか。それはよかった」 「じゃあ、こちらからお入り下さい」 そう言って関係者氏は、入口の横にある関係者専用の入口からぼくたちを入れてくれた。 開場からすでに30分ほど経過していた。
さて、いよいよ特別席である。 「どうぞこちらへ」と言って、関係者氏は扉を開いた。 「!」 ただの1階席である。 「ここでご覧になって下さい」 「えっ…」 「いや、突然のことだったので、お席が準備できなかったもんで…。あいにく今日は満員ですし…。すいません」 「いや、いいですよ。気にしないで下さい」 「では、こちらでごゆっくりお楽しみ下さい」 そう言って、関係者氏は戻っていった。 ぼくがT君に「話が違うやん。ごめんね」と謝ると、T君は「しかたないですよ。ただなんですから、贅沢は言えません」と言った。 しかし、幾分か落胆した顔をしていた。 そういうわけで、ぼくたちはコンサートの間、ずっとそこにいなければならなかった。 そこは1階の最後列、つまり立ち見席だったのだ。 こういう応対だったので、当然コンサート後の拓郎のレセプションにも参加することはできなかった。
翌日、さっそくKさんに電話した。 「昨日は、ありがとうございました」 Kさんは平謝りに謝った。 「どうもすいません。昨日だということをすっかり忘れてまして…。本当に悪いことをしました」 「もういいですよ。おかげで楽しませてもらいましたから」 「実はですね、ぼくはあの時、そこにいたんですよ」 「そこ?」 「ええ、しんたさんの店」 「えっ?」 「で、そちらの女の子から、『今日、拓郎のコンサートじゃなかったんですか?しんちゃん張り切ってましたよ』と言われて思い出したんですよ。それでさっそく会場に電話したんです」 とのことだった。
もし、当日、Kさんがうちの店に来てなかったとしたら…。 もし、その時、うちの女の子が拓郎のコンサートのことをKさんに言ってなかったら…。 フォーライフの関係者氏と、コンタクトをとることはなかっただろう。 もしそうなっていたら、全くの行き損になっていたことだろう。 そして、取引先のT君に対しても、面目丸つぶれになっていただろう。 口では「もういいですよ」とは言ったものの、心の中では『まったく、何やってるんだ。しっかりしてくださいよ』と思っていた。 そういうわけで、それ以降、いかなるコンサートにも、必ずお金を払って行くようにしている。
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