『傾きかけた日々』
傷ついた部屋に閉じこもって ぼくは何気なくマッチをすった 前からやっていたような気もするけど これが初めてのような気もする
その日太宰府は雨の中にあった ただいつもと違うことは傘が二つ 小さな梅の木はただ雨の中に そうやっていつも春を待つんだろう
マッチをすっては何気なく消して また新しい火を起こしながら うつろに風を眺めている だけどそれも何気なく忘れて
騒ぎすぎた日々と別れるように 今日太宰府は雨の中にあった もう今までのようなことはないような気がする あるとすれば次には君がいる
ぼくは現在まで、オリジナル曲を200曲ほど作っている。 その中には、いろいろなタイプの歌がある。 恋愛の歌、人生の歌、生活の歌、回顧の歌、お笑いの歌、惰性で作った歌などである。 それぞれのジャンルの中にも、歌詞を重視した歌、曲を重視した歌がある。 今回プレイヤーズ王国で公開した『傾きかけた日々』は、歌詞に「君」だとか「傘が二つ」だとかいう言葉があるため、恋愛の歌と思われるかもしれないが、実は回顧の歌なのである。
その回顧とは、太宰府に行ったことではない。 この歌の中では、太宰府に行ったことは、すでに過去になっている。
その太宰府に行ったのは、高校2年の年の11月だった。 前の月からつきあい始めた彼女との、初デートの場所が太宰府だったのだ。 その日のデートは、完全に白けたものだった。 何となく面白くなさそうな彼女を見て、ぼくも不愉快な気持ちになったものだ。 話も弾まない。 ぼくはいつもの調子で話しているのだが、どうも彼女のノリが悪い。 そばに寄ると迷惑そうな顔をするし、ぼくはだんだんうんざりしてきた。 そのせいで、ぼくは帰りの電車の中でふて寝することになる。 それでも「このまま終わってはいけない」と思い直し、駅に着いて、ぼくは「何か食べて帰ろうか?」と食事に誘った。 が、彼女は「いらない」と言う。 「送っていく」と言ったが、それも「いい」と断る。 もう、勝手にしろ、である。
家に帰ってからも、ぼくは怒りが収まらなかった。 太宰府でのことといい、駅でのことといい、思い出せば出すほど、怒りの度合いは強くなる。 その状態がどのくらい続いただろうか。 だんだん怒ることが馬鹿らしく思えてきた。 つきあうことにも、「もうどうにでもなれ」という気持ちになっていた。 そのうちぼくは、放心状態になっていった。 覚えたばかりのタバコを取り出し、火をつけたまでは覚えている。 その後、いったい何本のマッチを擦ったのだろう。 気がつくとマッチの燃えかすが、灰皿の中に、何本も置かれていた。 ようやく正気に戻ったぼくに、「この先どうなっていくのだろう?」という不安がよぎった。 それは、二人の恋の行方に対することではなく、人生に関わることだった。 「今まで、少し浮かれていたのかもしれん。このままだとだめになっていくような気がする」 そう思うと、将来が怖くなった。 回顧していたのは、この時の、ぼくの心の中である。
さて、二人の仲がどうなったかであるが、こんなつきあいが長続きするはずもなかった。 その後、電話をすることも少なくなり、その月の終わりに、ぼくたちの仲は消滅してしまった。 当然のことながら、未練など何も残らなかった。
ところで、歌詞の最後に出てくる「君」だが、もちろん太宰府の彼女のことではない。 ぼくがオリジナルを作る、そのきっかけを作った女性のことである。 恋愛の歌のほとんどは、その人のことを歌っている。
|