そういえば、この間のことだった。 先生の頬がなぜかげっそりと痩けていた。 そこでぼくが「先生どうしたんですか。具合でも悪いんですか?」と聞くと、先生は「休みなしで3日働いてるんですよ。きつくって」と言う。 ぼくとパートさんは呆れて、顔を見合わせた。 「そうだったんですか。そうですねえ、3日も続けて働くと、疲れますもんねえ」とぼくが言うと、「そうですよ。仕事は2日行って1日休みじゃないと」と先生は答えた。 翌日、薬局に行くと、先生はいなかった。 パートさんに「今日、ポマード(先生のこと)は休み?」と聞くと、パートさんは「ええ、ポマードはお休みでーす」と言った。 ぼくが「ああ、そうやろね、3日働いたけ、きっと熱がでたんやろうね」言うと、そのパートさんは「そうそう、先生は坊ちゃんですからね」と言って笑っていた。
ところで、そのH先生だが、実はぼくの高校の先輩なのだ。 ぼくは、ふとしたことでそのことを知って、内心「あっちゃー」と思ったものだった。 しかし、どんな人であれ先輩なのだから、無下には出来ない。 先生のほうも、ぼくのことを後輩だと思ってのことだろうが、ぼくを見かけると必ず声をかけてくる。 「で、どんな具合ですか?」 いつも「で、」で始まるこのセリフだ。 そう言われると、実に返すのが難しい。 最初の頃こそ、具体的に「今日は、けっこう忙しいです」とか「暇です」とか答えていた。 しかし、それが毎度のことなので、答えるのが面倒になって、ある時、「はい、こんな具合です」と答えた。 普通の人なら、こう返されると、あまり歓迎されないセリフだと思って、次からは他のことを言うだろう。 だが、先生の場合は違った。 それでも「で、どんな具合ですか」と聞いてくるのだ。
先日、ぼくの友人のオナカ君が訪ねてきた。 オナカ君は、ぼくの高校時代の同級生だから、もちろん先生の後輩である。 そこで、ぼくはオナカ君に「ちょっと会わせたい人がおる」と言って、オナカ君をH先生のところに連れて行った。 そしてぼくは「先生、同級生です」と言って、オナカ君を先生に紹介した。 すると先生は、急に例のぎこちない動きで、腕を振り出した。 何をやっているのかと見ていると、なんと小声で高校の校歌を歌っているではないか。 「先生、どうしたんですか?」 「いや、同級生やろ。だから校歌ですよ」 「‥‥‥」 これには、さすがのオナカ君も呆れていたようだった。
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