何が嫌と言って、棚卸しほど嫌なものはない。 ぼくが社会に出てからというもの、いつもこの棚卸しに悩まされている。 何しろ、店にある在庫を、すべて漏らさずに数えなければならないのだから大変である。 なるべく時間をかけずに、しかも正確に棚卸しをするために、入念に準備をしておく必要がある。 面倒なことが嫌いなぼくにとって、この作業は苦痛以外の何ものでもない。
過去、この棚卸しで、何度泣かされたことだろう。 前の会社の時、入社してから3年目で売場を任されたのだが、その最初の棚卸しは悲惨だった。 何をどうしていいのかわからないままに棚卸しをやったので、多額のマイナスを出してしまった。 上司からは文句を言われ、再度棚卸しの憂き目にあってしまった。 これを機に、ぼくは真剣に棚卸しと向き合うことになる。 それが良かったのか、その後マイナスは大幅に減っていった。
しかし、ぼくに運がないのか、そういうことに縁があるのか知らないが、その後受け持った部門は、なぜかマイナスの多く出る部門ばかりだった。 しかたなく、棚卸しの半月ほど前から準備をし、極力マイナスを押さえる努力をした。 結果が出たあとは、マイナスがどうして出るのかの分析も怠らずにやった。 そのおかげで、マイナスの出るのは、システムのせいだと突き止めたこともある。 その時は、いつも棚卸しの結果で文句を言ってくる本社に、逆に食いついてやった。 ところが、本社というのはのんびりしているもので、こちらが原因を突き止めたにもかかわらず、それに対しての改善やってくれないのだ。
そのため、次の棚卸しで、また同じようなマイナスが出てしまった。 本社から電話が入る。 「どうして、毎回こんなに多額のマイナスが出るんですか!?」 「だから、前の棚卸しの時に、なぜマイナスが出るかということを説明したでしょうが。どうしてこちらが言ったことを実行してくれないんですか!?」 原因がわかっているだけに、こちらも強気である。 押し問答をやったあげくに、「すいませんが、もう一度棚卸しをやってもらいませんかねえ」と来た。 「何回やってもいっしょです。そんな無駄なことはやめて、ちゃんとこちらの要望通りにやって下さい!」 そう言って、ぼくは電話を切った。
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