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2003年09月14日(日) 頑固なばあさん

昨日の日記の終わりに飛び降り自殺のことを書いたが、実は、飛び降り自殺の遭遇はこれで2件目なのである。
1件目は、今住んでいるところで起きたのではなく、ぼくがまだ実家にいた頃に起きた。

ぼくの実家は県の団地である。
ぼくが物心つく前から社会に出るまで、ずっと2階建ての県営住宅に住んでいた。
その頃、周りの平屋の市営住宅が次々と高層化していった。
県のほうも「これではいかん」と思ったのだろう、「ここも高層団地にいたします」というおふれを出した。
そこで、建て替えるまでの約1年の間、市の高層団地で生活することになった。

その高層団地は13階建てで、出来て間もない団地だった。
10階から13階までが県住住民のスペースになった。
ところが、そこにわがままなばあさんがいた。
「私は足が悪いから、そんな高いところでよう生活しきらん」と言うのだ。
13階とはいうものの、ちゃんとエレベーターも完備してあるので、1階や2階よりは湿気の少ないぶん過ごしやすい。
しかも、日当たりは低い階よりもずっとよく、健康的である。
県のほうもそのへんを説明したのだが、ばあさんは頑固で、自分の意見を曲げようとしない。
しかたなく、県も市も折れて、このばあさんに1階の部屋を与えることにした。

そこに住み始めて半年ばかり過ぎた頃、事件が起こった。
朝方、妙に下の方がざわめいている。
何だろうと思って見てみると、パトカーや救急車が停まっている。
ぼくは、さっそく家を飛び出して事情を聞きに行った。
どうやら飛び降り自殺があったらしい。
飛び降りたのはサラリーマン風の男性で、持ち物からそこの住民ではないことがわかった。
みな口々に「迷惑な話ですなあ」などと言い合っている。

その日、会社から帰ると、事件現場には花が置かれ、塩がまいてあった。
家に帰ると、さっそくその話題になった。
母は「落ちた位置がちょうど頑固ばあさんの家の前なんよ」と言った。
「ふーん」
「それでね、ばあさんはさっそく、『こんな縁起でもない場所に住みたくない。家を替えてくれ』と、管理人さんの所に怒鳴り込んでいったらしいよ」
「わがまま言うけ、そんな目に遭うんたい」
「そうそう、管理人さんも、『あなたがわがままを言って、その場所にしてもらったんでしょうが。今更部屋を替えるわけにはいきません』と言って突っぱねたらしよ」
「馬鹿やねえ」
「でも、ばあさんは『あんたに言うても埒があかん。県に訴えてやる』と捨てぜりふを吐いて帰ったらしいよ」
しかし、県や市が動くことはなかった。
結局ばあさんは、残りの半年間を、自殺者の霊が漂う場所で暮らしたのだった。
めでたし、めでたし。


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