頑張る40代!plus

2003年07月11日(金) ぼくの夏 後編

ある日のこと、他のクラスと練習試合をやっている時だった。
彼はサードを守っていた。
相手の打ったゴロをさばいて、ファーストに転送した。
ところが、その球が高かったために、ファーストが球を捕れず、ランナーはセーフになった。
ファーストが「おーい、もうちょっと低い球を投げれ」と言うと、Iは「あんな球も捕れんとか!?」と言った。
ファーストはカチンと来た。
しかし、その場は黙っていた。

その後の回である。
再びIのところに球が来た。
ところが、Iはそれを普通通りに投げずに、ゴロで投げた。
そして「ちゃんと、低い球投げたぞ」と言った。
これにはファーストも怒った。
危うくつかみ合いのけんかになりそうになった。
そのあげく、Iは「放棄試合や!」と言って帰っていった。
去っていくIの後ろ姿を見ながら、みんなは「バーカ、早よ帰れ」と言った
その後で「さあ、野球始めようか」と、ぼくたちは彼抜きの野球を楽しんだ。

そういう奴と、同じ子供会だったものだから、たまったものじゃない。
試合は7月なのに4月から練習を始めるし、練習を休むと迎えにくるし、雨が降っても練習するし。
また、ぼくは左打ちなのに、左打ちが自分の理論にないためか、無理矢理右で打たせたりした。
そのせいで打てないと、文句を言ってくる。
しかも、たかだか子供会の試合なのに、100本ノックなどをやっている。
練習の後は、ミーティングである。
とにかく、子供会の会長が彼をキャプテンに据えたものだから、ろくなことがなかった。

ある日、Iは練習に星座図鑑を持ってきた。
練習中に彼は、その星座図鑑を開き「よし、これに決めた」と言った。
何だろうと思っていると、Iは「この○座の何番目の星が、おれの巨人の星や!」と言った。
みんな呆れてものが言えなかった。
お前は星飛雄馬か!
だいたい、その星が北九州で見えるのか!?
その当時、Iの好きな言葉は『根性』だった。
そう、完全に『巨人の星』にかぶれていたのだ。

試合月の7月になった。
空模様は、今年の天候と同じく、「雨時々晴、所により雷雨または大雨の恐れ」といった状況だった。
それでも、Iの横暴は止まなかった。
「いいか、絶対優勝するんやけの!」
みんなもう冷めていた。
優勝なんかどうでもよかった。
とにかく、早くこの馬鹿げた練習から解放されたかった。

そして夏休み。
いよいよ試合が始まった。
1回戦は何とかものにしたが、打席にはいると、Iがいちいち指図するものだから、みんな不満を抱いていた。
それでもIは「いいか、おれの言う通りにやったら、絶対優勝するんやけの!」と言ってはばからなかった。
2回戦、もうみんなやる気がなかった。
しかし、Iは指図してくる。
「いいか、あそこに打つんぞ」
しかし、小学生にそういうことを言っても、そうそう狙い通りに打てるものではない。
結局、試合はIの指図通りの動いた、我がチームの負けであった。

試合が終わった後、一人だけ悔し泣きしている奴がいた。
Iではなかった。
5年生だった。
それを見たI以外の誰もが、「泣かんでいいやないか。喜べ、やっとあの練習から解放されるんぞ」と言って慰めた。
それを聞いて、彼は泣くのを止めた。
ところが、泣きやんだ彼の口から出た言葉は、「来年はもっと練習して、優勝する!」だった。
知らなかった。
バカはもう一人いた。


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