「いつの頃からだったろう、君の存在に気づいたのは」 (またその話か) 「いや、今日こそははっきりしておきたいんだ」 (別にそんなことどうでもいいじゃないか) 「じゃあ、君はいつからここにいるのか覚えていると言うのかい?」 (そういうことも忘れたなあ。ごく最近と言えばそんな気もするし、ずっと以前からと言えばそういう気もする) 「わからないな」 (そう、それでいいんだよ。ぼくは君が気づく前から、君のそばにいるんだから)
「生まれた時のぼくはどうだった?」 (どうだったって、今と何ら変わらないよ。見えるものを見て、聞こえるものを聞いていただけなんだから) 「生まれた時と変わらないってことはないと思うんだけど」 (変わってないよ。変わったと思うのは君の錯覚だよ) 「でも、現にぼくは成長しているじゃないか」 (成長ねえ。ただ服を着替えただけと思うんだけど) 「ああ、毎日服は着替えているよ」 (そういう意味じゃない。人は誰も、存在という服を着ているのだ。その時その時、その場その場で、その服は変わっていく。しかし、服はいつも変わるけど、それを着る人はいつも同じなんだ) 「よくわからない」 (わからなくていいんだ)
「ぼくには多くの敵がいる。いったいどう対処したらいいんだろう」 (気にするな) 「気にするなと言われても、気になるものはしょうがない」 (君が敵だと思うから敵なんだ。敵と思わなければ気にならないだろ) 「敵と思うななんて、そんなことできるわけないじゃないか」 (相手の存在が嫌なんだろ?) 「そうだよ」 (『嫌』を心の中から追い出せばいいじゃないか) 「そんなこと出来るはずないだろ」 (じゃあ、『嫌』を楽しんだらどうだい)
「ぼくは小さい頃から、ほら吹きって言われてるんだけど」 (それはしかたないだろう) 「何で?」 (ぼくがガイドラインだからさ) 「誰がそんなこと決めたんだ?」 (誰がって、君が生まれる前から決まっていたことさ) 「誰が決めたんだ?」 (君だよ) 「ぼくが生まれる前に、君をガイドラインと決めたというのか?」 (ああ、そうだよ) 「それはおかしい」 (どうして?) 「無の状態のぼくが、君を認識するわけがないじゃないか」 (もちろんだ。だけど、君はちゃんとぼくを選んだんだよ。というより、生まれる前から、君はぼくで、ぼくは君だったんだ) 「君は君、ぼくはぼくじゃないか」 (それは違う) 「どう違うんだい」 (ぼくは君だから、ぼくでありうるんだ) 「またわからないことを言う」 (わからなくていいよ) 「君はいったい何者なんだ?」 (ぼくか。ぼくはペテン師さ)
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