ギターについては、今年の1月に詳しく書いているので、ここでは割愛する。
さて、話はさかのぼるが、この年の4月、例の友人が自殺した日のことだった。 ぼくのクラスに、どこかで見たことのある女子生徒がいた。 『どこかで会ったことがあるんだけど、さて、どこで会ったんだろう?』 そんなことを考えながら、その子のことを何気なく見ていた。 結構活発な子だった。 それに目立つ。 と言うより輝いている。 ぼくの中学校にはいなかったタイプの子だった。 しかし、何か懐かしい感じがする。 『確かに以前会ったことがある。さて、どこで会ったんだろう?』 そのことを聞いてみようかとも思った。 が、聞かなかった。 ぼくは女の子と話すことには抵抗を持たないたちなのだが、その時はどういうわけか躊躇してしまったのだ。
『さて、どこで会ったんだろう?』と思いながらバスに乗り、『さて、どこで会ったんだろう』と思いながら家に着いたところで、友だち自殺の通報があったのだ。 その後もことあるたびに『さて、どこで会ったんだろうか?』と考えてみたのだが、その答はでなかった。 しかし、そのことを考えていくうちに、だんだん彼女から心が離れなくなっていった。
ぼくがはっきりその子のことを「好きだ」と思ったのは、その年の11月だった。 ところが、「好き」と自覚した時に、友人からショッキングなことを聞いた。 「しんた、あの子のことどう思う?」 ぼくは、自分の気持ちを隠すのに必死だった。 「うーん、どっちかと言えば、かわいい方やないんかねえ」 「そうやろ」 「それがどうしたん?」 「おれ、あの子とつき合うことにしたっちゃ」 「えっ!? いつ言うたんね?」 「昨日やけど」 「ふーん・・・」 もちろんその時、友人はぼくの落胆に気づかなかっただろう。
ぼくはその頃右手の小指の骨を折り、それまで毎日行っていたクラブをさぼるようになっていた。 そのため学校が終わるとすぐに帰っていたのだが、帰りはいつもその友人といっしょだった。 その話も、帰る時に聞かされたのだ。 ぼくは目の前が真っ暗になった。 友人の前では努めて明るく振る舞ったのだが、一人になった時、そのことがぼくに重くのしかかった。 「もうおれにはギターしかない」 そう思って半ばムキになってギターの練習をした。
それから毎日、友人から「昨日電話したら、話が長くなってねえ」とか「日曜日に二人で映画に行った」などというのろけ話を聞かされたものだった。 ところが、それから1ヶ月ほどして、友人が「しんた、おれあいつと別れた」と言ってきた。 「どうしたん?」 「彼女が『別れよう』と言ってきた」 「何かあったんね?」 「クラブ活動に打ち込みたいらしい」 「別に、クラブは関係ないやろ?」 「いや、彼女は気が散るらしい」 「ふーん」 ぼくは素っ気ない返事をしながら、内心『これでおれにも目が出てきた』と喜んでいた。 しかし、その喜びは、友人の言った次の言葉で砕け散ることになる。 「で、彼女、高校を卒業するまで誰ともつきあわんと、おれに約束した」 「・・・。じゃあ、高校卒業したら、おまえとつきあうということ?」 「いや、そういう意味じゃないけど」
ところが友人の話は意外な方向に展開する。 「ところで、おれ、本当はあいつより好きな人がおるっちゃ」 「えっ!?」 「実は、あの子は二番目に好きな子やったんよね。本命にはなかなか言い出しきらんでね。で、とりあえず、あの子と付き合うことにしたんよ」 ぼくは言葉が出なかった。 ふざけるな、である。 ぼくは彼女と出会って半年の間、あの子のことをどう思っているのかと、自分の心に問いかけてきた。 そして最終的に出た答が、「好き」だったのだ。 ぼくは一途な恋をする人間なので、いつも『二番目に好き』な人など存在しない。 好きな人は一人である。 いつもその人のことしか思ってない。 それなのにこいつは、である。
やけになったぼくは、その後「彼女が欲しい」が口癖になる。 新しい出会いを探して、その子のことを忘れようとしたのだ。 しかし、その子以上の女性に出会うことはなかった。 その後、8年間も。
8年後に、ぼくはその子を諦めることになる。 それは、彼女が結婚したからだ。 高校時代から書き始めた詩、高校時代から作ってきた歌、それらはすべて、ぼくの彼女への想いであった。 だから、たとえそれが拙い作品だとしても、たとえそれが気障な作品だとしても、その時までは、それらすべてが現実だった。 しかし、彼女の結婚を聞いた時、そういうものがすべて、過去のものになってしまった。
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