1973年4月、福岡県立×高校入学。 この高校は、前にも書いたとおり、女子の多い高校だった。 元高等女学校ということもあり、女子にとっては名門高校だった。 後年、同級生の女の子に就職を紹介したことがある。 その時、面接の人が「ほう、×高校出身ですか」と言って感心していた。
しかし、男子はそうは見られない。 周りの高校から、「あの高校には軟派な男が多い」と言われていた。 面白くないのは、近くの工業高校の生徒である。 彼らは、ただでさえ女っ気がなく悶々とした生活を送っている。 そういう彼らにとって、ぼくたち×高校の男子はやっかみの対象だった。 かなりの数の人間が、彼らに殴られたり、たかられたりという被害に遭っていた。
3年の時だったが、部活を終えて、ぼくたちは何人かでお好み焼き屋に行った。 お好み焼きの焼き上がりを待っている時だった。 ががやがやと例の工業高校の生徒が多数入ってきた。 彼らはぼくたちを見るなり、「お、×高校の奴がおる」となめた口調で言った。 ぼくたちはそれを聞いてカッとしたが、トラブルを起こすのが嫌なので無視していた。 彼らは、 「女ばっかり追いかけていい身分やのう」 「あいつ、ホック開けとうぞ。えらそうやのう」 などと、ぼくらに聞こえるように言った。 その時、その雰囲気を察したお好み焼き屋のおばちゃんが、機転を利かせた。 「あ、×高の柔道部の人。もうすぐ焼けるけね」 おばちゃんがそういうのを聞いて、工業高校の奴らは「あいつら、柔道部らしいぞ」と小声で言った。 それから、店の中は静かになった。 お好み焼きを食べ終わり店を出る時、ぼくはそいつらのほうを見た。 すると、そいつらはみな下を向いた。 男子が多くいるから強いつもりでいるが、所詮その程度の人間の集まりである。
しかし、「柔道部」というのが効かない学校もあった。 今話題になっている国の高級学校である。 ぼくはその学校の生徒から、同じ日に二度被害を受けたことがある。
1年の夏休み前のことだった。 行きがけ、友人とバスを待っている時のこと。 突然、一人の男がぼくの腕をつかんできた。 何だろうと思っていると、その男は「おい、100円持ってないか」と言う。 ぼくが「持ってない」と言うと、その男はぼくの横にいた友人に「お前は?」と聞いた。 友人も「持ってない」と言った。 その男は、その横にいたもう一人の友人にも同じことを聞いた。 その友人も同じ答だった。 男は頭に来て、「ふざけるなよ」と言うなり、端にいた友人の腹部に蹴りを入れた。 続いて、ぼくの横にいた友人にも蹴りを入れた。 次はぼくの番である。 しかし、ぼくは男の手を振り払い、2,3歩男から離れた。 男がぼくに襲いかかろうとしたので、ぼくは身構えた。 そして「持ってないもんは持ってないんたい!!」と大声で怒鳴った。 その一喝が効いたのか、男はそれ以上ぼくに近づこうとはしなかった。 そして、通りを歩いている学生を振り払いながら、男は駅の方に行った。 友人たちの方を見ると、彼らは腹を押さえてうなっていた。 ぼくが駆け寄ると、友人の一人が「しんたもやられたんか」と聞いた。 ぼくは、身構えて男を一喝したということは話さずに、「おれは逃げた」と答えておいた。
その日は試験期間中だったので部活は休みだった。 当然いつもより早く帰れる。 ぼくはクラスの友人と、普段とは違う道を通って帰った。 その道は野球場の裏側の道だった。 そこには林があるのだが、友人とその林にさしかかった時だった。 一人の男がぼくたちに近づいてきた。 「おい」と彼は言った。 「あ!?」とぼくが振り向くと、彼はぼくの横っ面を殴った。 そして、彼はぼくにナイフを突きつけた。 「こっちに来い」 ぼくたちは仕方なくついていった。 そこには彼の仲間がいた。 そして、彼らの一人がぼくたちに向かって、「こら、お前たち、おれたちのことを朝鮮ちいうて馬鹿にしよるやろうが」と言った。 ぼくは『チッ、こいつら朝高か。面倒やのう』と思いながら、「別に馬鹿にしよらんよ」と言った。 「うそつけ」と彼は、ぼくの頬を殴った。 二度も殴られたので、ぼくは頭に血が上り、その男を睨みつけた。 「なんかその目は?」 さっきの男がそう言って、またナイフをちらつかせた。 すると、他の男が「おい、ナイフはやめとけ」と言った。 ぼくは『こうなれば一戦交えんといけん』と腹をくくった。 ところがその時、『ナイフはやめとけ』と言った男が、「お前たち、もう行ってもいいぞ」と言った。 ぼくたちが唖然として立っていると、「早く行け」と言った。 ぼくたちは、その場を離れた。
後でわかったことだが、その日朝高は休みだったらしい。 ということは、朝の男も朝高の人間だったのだろう。 高校生面をして、私服を着ていたのだから。 しかし、二度もこんな目に遭うなんて、最悪な一日だった。 その後、ぼくは体格がよくなったせいか、こういう被害に遭うことはあまりなくなったが、他の生徒はけっこうやられていたようだ。 そんなふうに、ぼくの行った×高校は、女子が多いからというだけで、男子は弱いとなめられるような学校だった。 また、女子が多いというだけで、『恋愛学校』と呼ばれる学校でもあった。
|