さて、昨日は中学時代を書いた。 今日は当然高校時代を書くわけだが、この二つの学校の入学式前後に、どうしても忘れることの出来ない事件がある。
中学入学の2日ほど前に、ぼくは母の知り合いのUさんから入学祝いを買ってもらうことになり、Uさんの車に乗って街まで出た。 午後8時を回った頃、出かける時は小降りだった雨が、本降りになった。 「ああ、とうとう本降りになったね。急いで帰ろう」 そう言って、ぼくたちは車に乗った。 車の中で、ぼくは将来の抱負などを語っていた。 車が走り出して10分ほど経った頃だったろうか、助手席に乗っていたぼくの前に、突然黒い物体が現れた。 次の瞬間、「ドン」という音とともにその物体は宙を舞っていた。 物体は7,8メートルほど飛んだ後に地面に落ちていった。 運転していたUさんが「やった!」と叫んだ。 ぼくは何が起きたのかわからなかった。 車が急停車し、Uさんはその物体に駆け寄った。 ぼくはUさんを目で追っていった。 そこには中年の女性が倒れていた。 黒い物体は人だったのだ。 その女性は、横断歩道の数十メートル手前を、車を確認をせずに走って渡っていたのだ。 幸い意識はあった。 しかし、翌日容態が急変し、そのまま亡くなってしまった。 ぼくはUさんに悪いという気持ちでいっぱいだった。 しかし、非力なぼくにはどうすることも出来ない。 「あの街に行かなかったら・・」「1秒遅く出発していたら・・」 あの時ほど、1分1秒を悔やんだことはなかった。 さらに困ったことが起きた。 その事故の映像が目に焼き付いてしまって、その後何ヶ月も消えなかった。 目を閉じると、その映像が再現される。 そのうちに車ノイローゼになってしまい、一時は外を歩くのさえ怖かった。 ぼくが運転免許を取るのが人より遅かったのは、この事故の後遺症が残っていたからだ。
さて、高校入学の時事件である。 ぼくの家の近くに、友人が住んでいた。 彼とは保育園からずっといっしょだった。 小さい頃は気性が激しく、ぼくも何度かいじめられたことがある。 それでも、その頃はよく遊んでいたものだ。 しかし、小学生になってからは、いっしょのクラスになったことがないせいか、あまり遊ばなくなった。 そのため、中学1年に彼と同じクラスになるまで、彼がどんな性格になっているのか知らないでいた。 中学時代の彼は、えらく優しい性格になっていた。 以前とは逆で、ぼくのほうからいたずらを仕掛けることがよくあった。 それでも彼は抵抗しなかった。 1年の頃は、将棋をしたり、自転車で遠出をしたりしてよく遊んでいたが、2年、3年と別のクラスになったということもあり、彼とはあまり遊ばなくなった。 その間、彼が何を考え、どういう性格の変化があったのかは知らない。 ただ一つ、はっきりしていることがある。 彼とぼくは、同じ時期同じ人を好きになっていたということだ。 お互いそういうことは口にしたことはなかったのだが、何となく相手の仕草を見てわかった。 まあそれはいいとして、3年の2学期、彼は急に学校に来なくなった。 はっきりした理由は知らないが、噂では入院したということだった。 しかし、ぼくは彼が家にいるのを何度か目撃している。 結局、彼は卒業するまで一度も姿を見せなかった。 その後、彼がもう一度中学3年をやり直すという噂を聞いた。 ぼくがそれを聞いたのは、中学を卒業してからだった。 それから数日後のこと。 Oという友人と公園で遊んでいる時、彼が道ばたを歩いているのが見えた。 一瞬、ぼくとOは顔を見合わせた。 「声かけてみようか?」 「でも、あの噂が本当やったら、声かけるのも悪いし…」 とうとう、ぼくたちは声をかけなかった。 彼もぼくたちのそんなやりとりを察したのか、ぼくたちの視線から避けるように歩いて行った。 それが、彼を見た最後だった。 次の日、ぼくは高校に入学した。 その翌日のことだった。 学校から帰ってくると、電話が鳴った。 誰だろうと電話を取ってみると、Oからだった。 「どうした?」 「・・・、あいつが死んだ」 「えっ、嘘やろ?」 「いや、ほんと。自殺らしい。ガス管くわえて」 「・・・」 「あの時、声かければよかったのう」 「・・うん」 彼がどうして自殺を選んだのかは知らない。 まさか、2日前のことを気に病んでのことではないと思う。 いや、ないと信じたい。 では、1級下の者にいじめられたのか。 それも定かではない。 しかし、このショックは大きかった。 楽しいはずの高校生活も、このおかげで最初は全然おもしろくなかった。 彼のことを思うたびに、気分がめいってしまう。 周りで馬鹿やっている級友たちを羨ましくも思った。 結局、ぼくが高校で本領発揮するのは、それから1ヶ月後だった。 ところで、彼が住んでいた所は、現在駐車場になっている。 今でもぼくは、その前を通る時に、あの頃の暗い気分に戻ることがある。
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