朝、出勤時のことである。 家を出た後に、忘れ物をしたのに気がついた。 慌てて家の中に飛び込み、靴を脱ごうとした。 が、焦ったためになかなか脱げない。 やっとの思いで片方の足を出し、床に足を置いたその瞬間だった。 足が滑ってこけた。 玄関の横にぼくの部屋があるのだが、そこの敷居で思いっきり左腕を打ち付けた。 肘の下あたりに、痛みが走った。 その痛みで、ぼくはしばらく動けないでいた。
こけた時、かなり大きな音がしたらしく、台所にいた母親が、びっくりしてぼくの様子を見に来た。 「どうしたんね?」 ぼくは痛みをこらえて、「こけた」と言った。 「大きな音がしたんで、脳梗塞で倒れたかと思った」 そう言って、母は台所に戻っていった。
1分ほどぼくはそこに転がっていたが、少し痛みが引いたので起きあがった。 起きあがってまずやったことは、握力の点検だった。 手を握ると少し痛いが、力は入る。 どうやら骨に異常はなさそうだ。 ホッとして、ぼくは忘れ物を手に取り、再び家を出た。
日記にも書いたが、先月の23日にもぼくはこけている。 3週間に2度こけたということになる。 そのどちらも、足を滑らしてこけている。 足腰が弱ってしまったのだろうか。 はたまた、運動神経が衰えたのだろうか。 いまだ重い荷物を持つことが出来るので、足腰のせいではないと思う。 だが、運動神経の低下は充分に考えられる。 確かに、最近は敏捷さも身軽さもなくなっているようだ。 それは高い所から飛び降りる時によくわかる。 高い所から飛び降りる場合、若い頃はつま先から着地をしていたので、ネコのように「スタッ」という感じだった。 しかし、最近は着地の際、足の裏全体を使うので、「ドタッ」という感じである。 しかも、飛び降りた直後、鈍い痛みが走る。 また忍者の訓練でもして、敏捷さや身軽さを養わなければならない。
さて、思いっきり敷居に打ち付けた左腕だが、会社に行ってから袖をまくり上げて見てみると、かなり腫れていた。 それを見ると、また痛みが走ってきた。 そこでぼくは薬局に行き、湿布薬を買い、患部に張り付けた。 何とか痛みは治まったが、腫れの方はひどくなっていく一方で、湿布の上からでも腫れがわかるようになっていった。 しばらくは、この打ち身と戦わなければならないだろう。 いすに座っても肘をつけないというのは、本当に不便である。
ところで、小学生の頃、「たけむらたけこ」という言葉が流行ったことがある。 誰が言い出したのかは知らない。 また、普段はあまり使わなかった。 しかし、誰かがこけるのを見ると、必ず誰か一人がこの言葉を発していた。 中学生になると誰もこの言葉を言わなくなったので、おそらく小学校の同級生で、この言葉を覚えている者はいないだろう。 特に意味はないが、卑猥な言葉である。 今回のぼくの打ち身には、外傷はなかったので、この言葉は無効ということになる。
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