ペク君「ところで、帰国者から、何か連絡はあったか?」 リー君「いや、今のところない。彼らも工作員に囲まれているから、連絡が取りにくいんだろう。こちらから連絡しようと思っても、ホテルの電話は盗聴されているから使えんし」 ペク君「困ったもんだなあ。何かいい方法はないのか?」 リー君「実は、今日ソーレンのほうから、こういうものが届いた」 ペク君「お、携帯電話か」 リー君「これはただの携帯電話ではない。iモードという日本の最新兵器らしい。これ一台で、電話はもちろん、手紙のやりとりもできる。しかもこれにはカメラが付いている」 ペク君「すごいなあ」 リー君「デジタルだから盗聴されにくいということだ」 ペク君「ほう。ところで、帰国者はその電話番号を知っているのか?」 リー君「ああ、ソーレンが、みんなに知らせてくれている」 ペク君「じゃあ、まもなくかかってくるわけだな」
(ケータイ)「プルル、プルル、プルル」 リー君「お、さっそくかかってきた。はい、リー・・・。あれ? おかしいなあ」 ペク君「どうした?」 リー君「いや、切れてるんだ」 ペク君「切れてる? 誰からだったんだ? 履歴を見ればわかるだろ」 リー君「ああ。・・・。やっぱり、おかしいなあ」 ペク君「どうした?」 リー君「誰も電話してきた者がいないのだ。え? 何だ、この印は? さっきはこんな印なかったぞ」 ペク君「どれどれ。・・。ああ、これか。漢字の『四』に似た印だなあ」 リー君「ちょっと、ソーレンに聞いてみる」
リー君「もしもし、リーだが。今なあ、iモードなる兵器の呼び鈴が鳴ったんだよ。で、出てみると切れていた。おかしいと思って画面を見てみると、漢字の『四』みたいな印が出てるんだよ。これは、何かね」 ソーレン「漢字の『四』?・・・。ああ、それはメールですよ」 リー君「ああ、これがその印か」 ソーレン「はい。『プルル』って鳴ったでしょ。それが合図です。電話の場合は『リーン』と鳴るようにセットしています」 リー君「そうか。ところで、君はどうして『メール』などという敵国語を使うのかね。共和国の人間なら、ちゃんと手紙と言いなさい」 ソーレン「? ・・すいません」
リー君「手紙の印だそうだ」 ペク君「そうか、手紙か。で、誰からだ?」 リー君「ちょっと待て。・・ん? 全文日本語で書いてある。同志は日本語が堪能だったな。ちょっと読んでくれんか」 ペク君「どれどれ。・・・。なに!?『×××されたい主婦/綺麗系のお姉さん/学生・OL・人妻/無料で試食可能』、何だこりゃ」 リー君「それは暗号だよ。共和国に早く帰りたい、と言ってるんだ」 ペク君「ああ、なるほど。暗号か」 リー君「あれだけの工作員に囲まれているんだ。まともなことは書けないだろう」 ペク君「そうだな」
(ケータイ)「プルル、プルル、プルル」 リー君「また手紙か。もう10件目だぞ。今度は何だ?」 ペク君「これも暗号だ。『簡単に会えるデキル/出会い初心者歓迎』となっている」 リー君「敬愛する将軍様に早くお会いしたい、という意味だ」 ペク君「そうか。しかし、こう手紙ばかりだと飽きるなあ。相手もわからんし」 リー君「これも日本の工作員のせいだ」
(ケータイ)「リーン」 リー君「お、今度は電話だ」 ペク君「しかし、すぐ切れたなあ」 リー君「おそらく、工作員に見つかって、すぐに切ったんだろう。今度は履歴が出ている。ここに折り返しかけろということか。ん?」 ペク君「どうした?」 リー君「おかしいなあ。市外局番が06になっている。ニュースでは大阪に行ったとは言ってないんだが」 ペク君「そうだなあ」 リー君「ああ、出た出た。もしもし、もしもし、もしもーし」 ペク君「出ないのか?」 リー君「音楽が鳴っている」 ペク君「音楽?] リー君「ああ。あ、女性の声だ。もしもし」 ペク君「女性か」 リー君「え? 泣き出したぞ」 ペク君「変わろう。もしもし、ペクという者だが・・・。あ?」 リー君「どうした?」 ペク君「悲鳴が聞こえる」 リー君「ひ、悲鳴が!? 拷問を受けているのかも知れんぞ」 ペク君「切れた」 リー君「工作員から口を割らされているんじゃないだろうな」
(ケータイ)「リーン」 リー君「もしもーし」 (ケータイ)「ツー、ツー、ツー・・・」 リー君「また切れた。大変なことになっているのかもしれん」 ペク君「また大阪からか?」 リー君「ん? 今度は名古屋だ」 ペク君「おれがかけてみる。・・・。また音楽だ。女性の声、・・、泣き声、・・、悲鳴。また同じだ」
リー君「こうはしておれん。予定を切り上げて、早く退散しよう」 ペク君「よし、党本部に連絡して、日本政府に交渉してもらおう」
10月某日 リー君「ソーレン本部かね。リーだが。明日帰国することになった」 ソーレン「お疲れ様です」 リー君「宿泊費は頼んだぞ」 ソーレン「もちろんです。ところで・・」 リー君「何だ?」 ソーレン「電話の請求書が回ってきてるんですけど」 リー君「それもそっち持ちだろ」 ソーレン「も、もちろんです。ところで、どちらにおかけになったんでしょう?」 リー君「帰国者から連絡があったんだけど、こちらが出る前に切れるので、かけ直しただけだ」 ソーレン「何回電話されましたか?」 リー君「2,30回ほどかなあ」 ソーレン「さようですか。それにしても・・・」 リー君「何かあったのか?」 ソーレン「ええ、ちょっと・・」 リー君「言ってみろ」 ソーレン「請求金額が尋常じゃないので」 リー君「請求金額が? いくらだ?」 ソーレン「さ、三百万円でございます」 リー君「な・・・。日本はインフレか?」 ソーレン「そんなことはございません」 リー君「じゃあ、かけ直したら高くつくのか?」 ソーレン「そうじゃありませんけど・・。先生、もしかして呼び鈴はすぐに切れませんでしたか?」 リー君「ああ、1回鳴っただけだった」
−完−
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