頑張る40代!plus

2002年10月16日(水) しんた吼ゆ

今日は実に暇な一日だったが、ぼくはなぜか朝からいらだっていた。
それが鼻風邪のせいだということはわかっている。
鼻の中がむず痒く、シュンシュンする。
ポカンと開いた口。
常に虚空を眺める充血した目。
微熱に侵された思考。
こういう状態が、午後からのぼくの行動に大きく影響することになる。

いつものように、午後3時半から昼食をとった。
もちろん時間が時間だけに、食堂には他に誰もいない。
ぼくが毎日この時間に昼食をとるのには理由がある。
一つは夕食が遅いこと。
いつもぼくは9時に帰宅しているため、夕食を食べるのは10時半頃になる。
もし普通の人のように12時や1時に昼食をとっていたら、夕食まで10時間近くもあくことになる。
これは耐え切れない。
もう一つの理由は、普通の人と同じ時間帯だと、多くの人といっしょに食べなくてはならない。
人がいると、元来おしゃべり好きのぼくは、黙って食べるようなことをしないだろう。
そうなると、食べ終わるのにかなりの時間を要してしまう。
そのため、昼寝もできなくなる。
ここ数年の習慣である昼寝を削除するということは、後の仕事にも影響する。
ああ、もう一つあった。
これは店長が替わってから始まったことだが、今食堂内では11時〜15時まで禁煙タイムになっている。
食事の後にタバコを吸えないことほど苦痛なことはない。
以上のような理由から、どんなことがあろうとも、食事は3時以降に取るようにしている。

今日も誰にも邪魔されることなく、一人で弁当を食べていた。
その時、小さくトントンと食堂をノックする音がした。
しかし、食堂は別にノックして入るような場所ではないので、ぼくは無視していた。
ドアが開いた。
背の高い男の人が入ってきた。
彼は食堂内を見回して、そこにあった健康器具を見ていた。
続いて、やせ気味の女の人が入ってきた。
彼女も食堂内を見回していた。
男がぼくに言った。
「今食事ですか?」
「はい」
「ここにある健康器具はどうしたんですか?」
「知りません」
「景品か何かでもらったんですか?」
「知りません」
まさか、衛生週間の検査の時にいい印象を与えるために、急遽店長が不良品置き場に置いてあった健康器具を食堂に持って来た、とは言えない。
男は続けた。
「みなさん、これ使ってますか?」
「使っている人を見たことがありません」
「そうですか・・・」

女が言った。
「ここは禁煙ですか?」
「壁に貼っている紙を見て下さい」
壁には『禁煙タイム11時〜15時』と書いてある。
「じゃあ、それ以外の時間は吸っているんですね」
「そうです」
「あのう、この紙剥いでもらえませんか?」
「え?」
「もう貼らなくていいです」
「じゃあ、時間に関係なく吸っていいんですか?」
「いや、時間に関係なく禁煙だということです」
ぼくは『この女何者だ』と思い、胸についているネームプレートを見てみると、そこには『医師』と書いてあった。
『愛煙家が肩身が狭い思いをしなければならないのも、こんな医者がいるからだ』と思うと、ぼくは急にムカついてきた。
そして、その医師の目を睨み言った。
「それは嫌煙家の言い分でしょ。確かに嫌煙権というのは社会的に認められたでしょう。それはそれでいいと思います。しかし、嫌煙権というものが認められるなら、喫煙権も認められていいんじゃないですか」
「いや、これは厚生労働省からの・・・」
「そんなの認めません!」
「でも、ここには体の悪い人もいるわけだし・・・。そういう人にとってタバコの煙はよくないんです」
「じゃあ、喫煙者は全員外で吸え、ということですか?」
「そういうことになりますね」
「ぼくたち男はそれでいいですけど、女性は外では吸いませんよ」
「そんなにタバコを吸う人が多いんですか?」
「ここで働いている人の半数以上が吸います」
「でも、建物の中で吸われるとねえ」
「煙が部屋に立ち込めなければいいんでしょ。あそこに換気扇がありますけど、その下で吸ったらいいじゃないですか」
「ああ、そうですね。分煙したらいいですね。しかし、それだけではだめです。ビニールか何かで囲まないと」
「じゃあ、そういうふうにしろ、と店長に言って下さい」
このやり取りを、後から入ってきたタバコを吸わない店長がハラハラした顔をして見ていた。
医師は店長に、「この方は自分の管理のもとで、タバコを吸われていくそうです。それはそれでいいですから、そういう人のための環境を作ってやって下さい」と言って、具体的な方法を指示した。

医師は再びぼくのほうを向いて言った。
「じゃあ、喫煙コーナーを設けてもらいますから、それまでは禁煙タイムを守って下さいね」
「言われなくても、最初からその時間帯は外で吸っています」
「・・・」

せっかくの食事の時間を、こんな討論で費やしたくなかった。
鼻風邪さえ引いてなかったら、ぼくもそこまで食いつかなかっただろう。
医師の言うことに従わないにしろ、言うことを黙って聞いていたかもしれない。
しかし、医師に喫煙を認めさせたというのは大きい。
禁煙タイムなどという悪習からも解放されるわけだ。
おそらく数週間後には喫煙コーナーができるだろう。


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