以前働いていた会社には、よく芸能人が来ていた。 昭和56年の創業当初には、石川秀美・沖田浩之といった当時のアイドル。(たしかデビューしたての小泉今日子もきたと思う) その後は水前寺清子や日野美加といった演歌系の人たち。 また、地元のお笑い界から、ばってん荒川や福岡吉本の面々。(知らんだろうなあ) こういう人たちと、ぼくは別に言葉を交わしたわけではない。 ただ店に来てミニコンサートをやっていただけである。 物々しい警備に守られて、彼らはやって来た。 そして帰っていった。 その担当以外は、いつ来たのかも知らないのである。
ぼくが言葉を交わした人といえば、「秋冬」がヒットした頃の元高速エスパー三ツ木清隆、自衛隊出身の異色の演歌歌手東千春、アイドルの姫乃樹リカくらいである。 まあ、こういう人に会っても交わす言葉といえば、「頑張って下さい」くらいのものだ。 こちらは別に好きでもなんでもないのだから、普通の兄ちゃんや姉ちゃんと何ら変わりはない。
キャンペーンやイベントでもないのに来る人もいた。 俳優の高城丈二や歌手の清水健太郎である。 高城は小倉に女がいたとか。 また清水はただ単に出身地が小倉、という理由からである。 二人とも買い物に来ていたのだ。 特に清水は、「値引きしろ」の一点張りだったという。
これは店に来たとかいう話ではないのだが・・ かつて田中久美というアイドルがいた。 彼女は引退してから、しばらく小倉の百貨店「井筒屋」で働いていた。 もちろんアイドル音痴であるぼくは、田中久美のことなど全然知らなかった。 当時、井筒屋に友人が働いていたのだが、その人が教えてくれたのだ。 仕事中のぼくに電話をかけてきて、「しんたさん、今、田中久美おるよ。おいで」と言うのだ。 ぼくとしては、別にどうでもいいことなのだが、彼があまりにしつこく「来てくれ」というものだから、ちょっと仕事を抜け出して井筒屋に行ってみた。 わざわざぼくを、彼女が所属している売場まで連れて行き、「ほら、いるでしょう」と言う。 しかし、ぼくは田中久美という人がどんな顔をしているのかまったく知らない。 どうでもいいことなので、ぼくは「ああ」と生返事をしておいた。 結局、どれが田中久美なのかわからないまま、ぼくは職場に戻った。
以前「あの人は今」的な番組で見たのだが、元アイドルの藤井一子は今北九州に住んでいるらしい。 元々こちら出身なので、別にここに住んでいてもおかしくはないが。 その番組を見た時、彼女がデビューした時、同じ町内の人が「今度デビューしたんよね。せめてレコードだけでも」と言って、彼女のレコードを買っていたのを思い出した。 彼女は、ぼくが今勤めている店によく買い物に来ているという。 先日も取引先の人が、「さっき藤井一子が来てましたね」と言っていた。 しかし、地元出身であろうがどうであろうが、ぼくはアイドルなんて全然興味がない。 そういういきさつがあるので、藤井一子という名前は知っているのだが、顔を知らない。 だから、たとえぼくが藤井一子を接客したとしても、まったくわからないだろう。
これは芸能人ではないのだが、何年か前に小倉駅で、あの戸塚ヨットスクールの校長の戸塚宏を見かけたことがある。 あの顔は特徴があるので、有名人音痴のぼくも一見してすぐにわかった。 その時は「何でこんな所に?」と思ったが、あとで人から「戸塚宏は北九州出身」というのを聞き、「ああ、それで・・」ということになった。 ぼくが以前通っていたスナックのママさんは、戸塚さんとよく一緒に飲んでいたという。 戸塚さんの話が出ると、決まって「世間はいろいろ言うけど、あの人はね、立派な教育者なんよ」と言っていた。 先日懲役6年の刑が確定した時に、彼はインタビューを受けていたが、毅然とした態度で「この国に住んでいる以上、(刑を)受けざるを得ないでしょう」と淡々と語っていた。 そういえばぼくの周りには、戸塚さんの悪口を言う人はあまりいない。 古き良き教師像を、彼に見ているのかもしれない。
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