その店に入ってまず気づいたことは、全然賑やかさがないということだった。 お客もそこそこ入っているし、それ以上にホステスもいるのだが、談笑している様子もなく、ひっそりとしている。 BGMも鳴っていることは鳴っているが、全体的に音が小さい。 「変な店だなあ」と思いながらも、ぼくらは席に着いた。
ほどなく、三人のホステスがやってきた。 「いらっしゃーい」 その声には明るさがなかった。 「私、○○でーす。よろしくお願いしまーす」と、各自自己紹介を始めた。 若作りはしているものの、ぼくたちよりは歳が行っている。 しばらく談笑していたが、何か盛り上がらない。 いっしょに行っていたメンバーの一人であるGさんが、「よーし、おれが景気付けに歌ってくる」と席を立ち、ステージに上がった。 Gさんは調子に乗って3曲ばかり歌った。 しかし、拍手の一つもない。 こちらのパブなら、いくら下手でも拍手ぐらいはある。 Gさんは首をかしげながら戻ってきた。 そしてぼくに「しんちゃん、この店変やねえ」と耳打ちした。 ぼくは「うん」と言ったきり黙っていた。
あまり静かになったので、ホステスの一人が、「大人しいですねえ。いつもこうなんですか?」と言った。 もう一人のメンバーKさんが、「いや、初めてだから緊張してるんですよ」と答えた。 すると、他のホステスが、「まあ、緊張してるなんてかわいい。抱かれてみたいわー」などと言い出した。 その時、ぼくの隣にいたホステスが、ぼくの腕を触った。 「へえ、腕太いねえ。何かやってるの?」 「むかしちょっとね」と言って、ぼくは力こぶを出して見せた。 「わあ、たくましい。抱かれてみたーい」 いよいよ変だ。
もう一人のホステスが、「ねえねえ、ここを出てどこか行かない?」と言い出した。 どういうわけか、KさんとGさんは乗り気である。 しかし、ぼくは気が進まなかった。 そこで、「あまり気が進まん」と言った。 どうしても民謡酒場に行きたかったのだ。 「しん、いいやないか。ちょっと付き合え」と、二人が声をそろえて言うので、ぼくはしぶしぶ付き合うことにした。
「じゃあ、OKね」、とホステスは従業員を呼んで「精算してきて」と言った。 従業員が持ってきた勘定票を見て驚いた。 一人1万円になっている。 「これ、おかしいんやない?」 「ああ、これね。チャージが5千円で、連出し料が5千円なの。ごめんね」 それほど飲んでないのに1万円の出費である。
店を出ると、そこに2台のタクシーが停まっていた。 どうやらぼくたちを待っていた様子だった。 タクシーに分かれて乗り込むと、ホステスの一人が「例の所に行って」と言った。 3分ほど走って、タクシーは止まった。 タクシー代も、こちら持ちである。 ホステスたちはタクシーを降りると、ぼくたちの腕を掴み、建物の中に連れ込んだ。 慌てて入ったので、そこがどこかわからなかったが、中の雰囲気からすると、どうやらそこはホテルのようだった。 ホステスは「ここから分かれるのよ」と言って、ぼくたちをそれぞれの部屋に連れて行った。
・・・つづく
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