いつも日記に、お酒が好きだと書いているので、意外だと思われるだろうが、実はぼくは甘党である。 ショートケーキをビールのつまみにしたこともある。 洋酒を飲む時は、チョコレートやレーズンバターを離せない。 日本酒は基本的に甘口である。 カルピス酎ハイ、大好きである。 杏露酒、大歓迎である。
こんな甘党のぼくにも、かつて苦手なお菓子があった。 それは、プリンである。 小学生の頃、プリンが全然だめだった。 ハウスのプリンが発売された当初、親戚のおばちゃんに作ってもらったことがあるが、クセのある嫌な味だった。 そのせいでぼくはプリンが嫌いになり、給食に出たプリンは、いつも人にあげていた。 もちろん、デパートに行った時も、プリンのついている「お子様ランチ」などは注文しなかった。
ようやく、プリンを口にするようになったのは、30歳を越えてからだった。 その間、何度かプリンを食べる機会はあったが、いつも小学生の頃の思い出にさえぎられて、食べることはなかった。 30歳を越えた時に食べたプリンは、グリコの『プッチンプリン』だった。 腹が減ったので、冷蔵庫を開けてみたら入っていたのだ。 ただ、その時はプリンと思って食べたのではなかった。 あまりに腹が減っていたので、冷静さを失っていたのだろう。 固形のヨーグルトと思って食べたのである。 容器に「グリコ/プッチンプリン」と書いているし、色も違うじゃないか、と思う人もいるだろうが、その時は本当にヨーグルトだと思っていたのだ。 その時は、ちょっと色が変だなあ、と思った程度である。
当時はプッチンプリンの食べ方も知らなかったので、そのまま容器に付属のスプーンを突っ込んで食べた。 一口目に、「あれ?」 二口目に、「ヨーグルトじゃない」 三口目に、「何だ、これ?」 と、三口食べた後で、ようやく容器の文字に気がついた。 「げ、プリンやん」 と思ったが、それほど悪い味ではない。 かえって、おいしさを感じる。 「まあ、食べてみるか」と、ぼくは一気にこれを口の中に入れた。
それから、プッチンプリンが病みつきになった。 こうなると、レストランのプリンも食べてみたくなる。 レストランに行く機会があると、いつもデザートにプリンを頼んでいた。 その後、プリンを食べるのにも飽きて、またいつものミルクティを頼むようになった。
しばらくプリンのことを忘れていたが、ある時、「さかえ屋の○プリンはおいしい」とパートさんたちが話しているのを聞いた。 「さかえ屋の、何プリン?」 「石田プリン」 「おいしいと?」 「おいしいよ」 「じゃあ、買ってきて」 「そのプリンね、毎日売る個数が決まっとって、朝早く並んで買わないけんとよ」 「そうなんね。じゃあ食えんねえ・・・」 プッチンプリンの洗礼を受けてから、ぼくはいっぱしのプリン通のつもりでいたので、どうしてもその『石田プリン』なるものを食べてみたかった。
ようやく、その『石田プリン』を口にすることが出来たのは、その話を聞いてから半年後のことだった。 ある人が差し入れしてくれたのだ。 プッチンプリンと同じように、プラスチックの容器に入っている。 容器にはちゃんと『石田プリン』と書いてある。 まず、一口食べてみた。 ぼくが知っているプリンの味と全然違う。 玉子の味が若干強く、といって嫌味がない。 カラメルソースとうまく調和している。 あまり甘すぎもせず、上品な味のする一品だ。 もし、これをプリンと呼ぶのなら、ハウスプリンやプッチンプリンはプリンとは呼べないだろう。
さかえ屋は福岡県内にある、お菓子のチェーン店である。 石田プリンは、元社員の石田さんという方が作ったプリンだから、そう呼ぶらしい。 実に安易なネーミングであるが、それだけに重みを感じる。 このプリンを知っている人は、その名前を聞いただけで、あの味が蘇るだろう。 残念ながらぼくは、この石田プリンを2度しか食べたことがない。 それだけ、手に入りにくいプリンであるといえよう。 まあ、休みの日に早く起きて、わざわざさかえ屋に行くのが億劫なだけであるが。
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