ヒトは誰しも、卵の時期がある。 離乳食を食べるようになり、二本足で歩けるようになるまでが、その時期に当たる。 一般に「かわいい、かわいい」とちやほやされる時期である。 だいたい、この時期は見るもの触るものに興味を抱くだけだと思われがちだが、この時期の精神活動たるものや、凄いものがある。 前世のトラウマ、プライド、癖、しがらみ、などすべてを清算する、という大事業を行っているのだ。 ここで、前世を清算して、新しい人生を始めるのである。
時に、わけのわからないことで泣き出す赤ん坊。 実は、この時に過去を清算しているのだ。 よく、赤ん坊は我々大人が見えないものを見、聞こえないものを聞く、と言われる。 赤ん坊が見ているもの、それは神なのである。 赤ん坊が聞こえるもの、それは天の声である。 「こんにちは。神様です」 「だ?」 「今日は、過去を清算しに来た」 「だあ」 「○子ちゃんを覚えておるか?」 「だあ」 「そう。小学生の頃、お前が家庭科の時間にコショウをばら撒いて、くしゃみをさせた子だ」 「だ、だあ」 「覚えてないだと?わしにごまかしは通用せん」 「ぶう」 「あの子それからどうなったと思うか?」 「だあ」 「知らない、か。あの子はあれから、強度のアレルギー性鼻炎になったのだ」 「・・・」 「おかげで、春先にはいつも花粉症に悩まされておった」 「・・・」 「かわいそうなことに、それが原因で婚期を逸してしまい、彼女は一生独身だったのだ」 「・・・」 「その記憶は消そう。しかしだ。今生、○子ちゃんはお前の妻になることになる」 「ぶう」 「何、好みじゃないだと?今生は好みになるのじゃ」 「ぶう、ぶう」 「性格悪かっただと?それは、お前が原因じゃないか」 「・・・」 「いいか、一生かけて○子ちゃんに償いをしろ」 「ぎゃあ」 「ふん、泣いても無駄だ」
「お前、酒が好きだったなあ」 「だあ」 「残念だが、今生では、お前は酒を受け付けない体質になるのだ」 「ぎゃあ」 「お前は前世、何度酒で失敗したと思っているのだ」 「ぶう」 「何?失敗してないだと。よく考えてみろ」 「だあ、だあ、だあ」 「ブー。3回じゃない。それは宴会で醜態を演じた数じゃないか。そうではない。前世お前は酒を飲んだ数だけ、失敗しているのだ」 「だあ」 「何を失敗したかって?人を傷つけたんだよ」 「だあ?」 「お前は前世で、よく人のことを観察していただろうが」 「キャッ、キャッ」 「笑い事ではない!それで充分に相手は傷ついたのだ。お前は人を観察しながら、時折その口から毒を吐いていただろうが。変なことばかり言いやがって。相手はそれで寿命を縮めたんだ」 「・・・」 「いいか。今生お前は、アルコールのにおいを嗅いだだけで、酔っ払う体質になるのだ」 「ふ、ぎゃあ。ふぎゃあ」
「お前は、今生もグリーンピースを食べない気でいるな」 「だあ」 「しかしだ。今生では食べてもらう」 「ぎゃあ」 「だめだ。グリーンピースの件は厨房の神様から強く言われていることだ。お前がファミレスで、ピラフに入っているグリーンピースを残したおかげで、ファミレスの従業員や周りの人がどれだけ迷惑したことか」 「だあ?」 「汚いんだよ。その残し方が。他の人のスープのカップの中に入れたり、皿の上でつぶしたりして。挙句の果てには、グリーンピースを、人が飲んでいるコーヒーの中や、背中に入れたじゃないか!」 「・・・」 「ふん、寝たふりか。まあ、好きにするがいい。お前の離乳食は、ピースご飯で決まりだ」 「ふ、ふぎゃあ」
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ヒトは誰しも、卵の時期がある。 この時期、ヒトは前世を清算するという。
※すべてフィクションでございます。
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