いつの間にか、春の選抜高校野球が終わっていた。 今回は報徳学園が優勝したのか。 それは、おめでとうございました。 しかしぼくにとっては、どうでもいいことである。 毎回毎回、どうでもいいことだと思っている。 次回も当然、どうでもいいことだと思うだろう。
実は、ぼくはアンチ高校野球派なのである。 これは高校時代から始まったことだ。 なぜ、高校野球が嫌いになったのかというと、野球部というのが、学校内外で異常に優遇されていたからである。 その当時、ぼくの所属していた柔道部の年間の予算は、7万円であった。 一方の野球部の予算は、50万円であった。 ぼくは生徒会に食いついた。 「この差は何か!!」 「だって、野球部のほうが部員が多いじゃないですか」 「部員が多かったら、予算が多いんか? それなら野球部より部員の多い生物部はどうなるんか?」 「いや、部員が多いという理由だけではないんです」 「じゃあ、遠征に金がかかるんか?」 「いや、遠征費は別枠です」 「じゃあ、何に金が要るんか? バットか? グローブか?」 「いえ、バットやグローブは違いますけど」 「じゃあ、ボールか?」 「はい、それは含まれています」 こういう押し問答をずっとやっていた。 挙句の果てには、 「だって、柔道部は全然注目されてないじゃないですか。それに比べると野球部は・・・」 と、いかにも野球部だけが運動部と思っているような発言をする始末だった。 しかし金の使い道は、釈然としない。 結局そこを突っ込んで、柔道部の予算を3万円上乗せさせた。
また、野球部の試合は何かと話題に上った。 当時、ぼくの通っていた高校は、軟式テニスと水泳がずば抜けて強い学校だった。 どちらも、国体やインターハイで優勝している。 しかし、そういうことは、学校内では全然話題に上らない。 全校朝礼の時に、軟式テニス部や水泳部の人間が表彰されても、 「ふーん、あいつら優勝したんか」 で終わりである。 それに対し野球部のほうは、県北予選の1回戦程度で話題に上るのだ。 これでは、軟式テニス部や水泳部の人たちの努力が報われない。
授業でも、野球部の人間は優遇されていた。 3年の時、水泳の時間に半分近くの人間が見学していたことがある。 それを見て、体育の教師は怒り出し、一人一人理由を言わされた。 ぼくはその時、クラブの練習で足の親指を負傷していた。 包帯を巻いていたこともあり、見学組に回っていたのだが、「そんなの理由にならん!」と一蹴された。 ところが、である。 その見学組の中に、野球部のエースがいた。 彼に対して先生は、「まあ、お前は仕方ないのう。ここにいて肩を冷やしでもしたらことだ。早く教室にもどれ」と言った。 何なんだ、この差は!! 条件は一緒じゃないか。 野球部のエースだからといって、許されることではないだろう。 結局、野球部のエース以外は、みな「サボリ」とみなされ、後に罰を受けることになる。
マスコミは甲子園の予選ともなると、異常な加熱ぶりを見せる。 デパートにもどでかい垂れ幕が下がる。 甲子園出場校の最寄り駅で必ず出陣式をやってくれる。 甲子園のトトカルチョは黙認される。 俳句の世界では、「高校野球」や「球児」というのが季語になっている。 夏は特に、テレビ朝日が張り切る。 クロネコヤマトまでもが張り切っている。
高校の卒業アルバムには、当然のように野球部の試合風景や、野球部を応援する一コマが掲載されている。 果たして野球部を応援したことが、一生の思い出になるのだろうか?
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