趣味が悪いと言われればそれまでだが、ぼくは人を観察する癖がある。 こうして日記を書くからそうなのかと思われるかもしれないが、実は日記をつけていなかった小学生の頃からそうなのである。 小学生の頃は、人を観察してはよく笑いのネタにしていた。 また、ぼくは減らず口人間だったから、そのネタを口げんかの武器に使ったりもした。 学生時代を振り返ると、ずっとこんなふうだったように思う。
社会に出てからもその姿勢は変わらない。 いろいろなところで、人の観察ばかりしている。 日記をつけ始めたのは昨年の1月だが、それ以前は何のために観察していたのかというと、やはり笑いのネタのためである。 学生時代と社会人になってからと、生活面で何が一番変わるかというと、それは飲み会の回数が増えるということだろう。 長崎屋にいた頃は、2〜3日に一度の割りで飲みに行っていた。 ぼくは仕事中はけっこうふざけるほうだったが、飲むと決まって大人しくなった。 というよりも、おとなしく振舞っていたのだ。 いつも「しんちゃん、大人しいね」と言われるので、「ぼくは酒を味わって飲むほうですから」と返していた。 しかし、ぼくは別に酒を味わっているわけではなかった。 そう、一緒に行った人が酔っ払う姿を観察していたのだ。 何のために? それは、次に飲みに行く時に、その人を肴にするためである。 大人しく振舞いながらも、ところどころでネタを出す。 その反応をまた観察して楽しむ。 こういう酒が一番おいしい。 「ちびまる子」に野口さんという、人を観察することが好きな、お笑い好きの暗い女の子が出てくるが、ぼくの性格は明るい野口さんと思っていただければいいだろう。
人を観察していると、どんな些細なことでも面白おかしく映り、且つそういうタイミングを逃さなくなる。 普段は話し上手で冷静に物事を判断する人が、酒を飲むと突然口がまめらなくなる、というのはよくあることである。 ぼくの知り合いもにそういう人がいる。 その人は、口がまめらなくなった時何を思ったか、「おれは、海綿体パパだー」と、前後の会話と全然関係ないことを口走った。 みんなあ然としていたが、ぼくは「だから人間観察はやめられん」とひとりほくそえんでいた。 その海綿体パパ氏には、こういうエピソードがある。 10人ほどで飲みに行った時のこと。 宴もたけなわになった頃、海綿体パパ氏が「ちょっとトイレに行ってくる」と席を立った。 ところが、何をやっているのか、彼はいつまでたっても帰ってこない。 「どうしたんだろう?」と心配になってトイレに行ってみると、個室のドアが全開になっている。 覗いてみると、彼はパンツを脱いだ状態で、便座に座ったまま眠っていた。 おそらく、用を達している最中に眠ってしまったのだろう。 この間抜けな格好を見たでも十分に笑えるのに、さらに彼は笑わせてくれた。 どういうわけか、彼はグラスを持ってトイレに入っていた。 もちろん酒が入っている。 ぼくが彼を見つけた時、そのグラスを持った手が動いていた。 グラスの中の酒がゆったりと波打っている。 「この人は眠ったまま、何をやっているんだろう?」と思って観察していると、その手がある法則にしたがって動いているのに気がついた。 「おお、この手の動きは!!」 ・・・なぜか三拍子であった。
もう20年以上も前の話である。 今でもたまに海綿体パパ氏と飲む機会があるのだが、ぼくはこの時のことを相変わらず口にする。 そのつど反応が変わるのを観察するためである。 ぼくは、嫌な奴である。
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