ようやく小倉に着いた。 まだ血は流れている。 ちょっとふらついているが、人に見つからないように平然を装って歩いて行った。 店に着いて、まず事務所に行った。 「すいません。ちょっとこけて怪我したもんで遅れました」 「怪我?どこをね?」 「はあ、頭です」 「頭!?」 総務の次長がぼくの頭を覗き込んだ。 「ああ、ひどいねえ。どこで怪我したんね?」 「はあ、黒崎で」 「えっ!?あんたこの怪我で、黒崎から来たとね?」 「はあ」 「病院行っておいで」 「えっ?」 「すごく切れとるよ」 「そんなことはないでしょう。頭の怪我やけ大げさなだけですよ」 「とにかく病院に行ってきなさい」 しかたなくぼくは事務所の女性に連れられて病院に行った。
病院でも同じ問答を繰り返し縫うと言い出した。 「えっ!?縫うんですか?嫌ですよぉ」 「いや、あんたが縫わんでいいなら縫わんけど。とりあえず写真を撮ってみるから、その写真を見て判断して下さい」 傷口の周辺の髪を剃られ、ポラロイドカメラで写真を撮られた。 見てみると、確かに傷口がパカっと開いている。 「どうするね?」 「縫わんで治す方法はないんですか?」 「ない!」 しかたなく、ぼくは医師の言う事に従った。 縫う間のぼくは饒舌だった。 「先生、電化製品要りませんか?」「今電子レンジが安くなってるんですよ」「分割払いでもOKですよ」などと言って商売をしていた。 結局5針縫った。 包帯を頭にくるくる巻かれ、「今日から抜糸まで絶対に頭を洗ったらいけんよ」と言われた。 夏は過ぎたとはいえ、まだ9月である。それから抜糸までの1週間、あまりの頭の痒さで気が狂いそうだった。
そのあと病院から会社に帰ると、例の次長が「今日はどうするね?帰るね?」と訊いた。 まだ頭は痛かったが、別に帰るほどきつくはなかったので、「仕事しまーす」と部署についた。 上司は「今日は店に立たんほうがいいやろう。なんなら外回りするか?」と言った。 ということで、その日は一日外回りをした。 得意先などを回ったのであるが、行く先々で必ずこう声をかけられた。 「どしたんね?パンツなんかかぶって」
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